第16話

「これは…………」

 遅れて到着した遠山一行は、現場の光景を見て絶望と恐怖に呆然と立ち尽くしていた。その行いはもはや殺人鬼などではなく、虐殺いや、テロリストとでも言おうか。現場に散乱する死体は、犯行の残虐さを鮮明に示していた。

「痛そう……」

 迩摩が呟く。

「そんな悠長なこと入ってられないだろこれ……。ギルド連合協会の中でも精鋭を集めた討伐部隊なのに、こんなにも早く、そしていとも簡単に壊滅するものか?」

 敵が物凄く腕の立つ者であることは確かである。その理由には死体の殺害のされ方が多様なのがまず挙げられる。同じような攻撃方法を続けていると、相手に次の攻撃を予測されやすい。攻撃の前には特定のモーションが入るので、そのモーションによって攻撃を事前に見極められてしまう。しかし、攻撃方法を多様化することで、相手に次の一手を予測させずらくする効果がある。次に死体を弄ぶほどの余裕があったということと、ギルド連合協会の中でも精鋭を集めた部隊をこれ程も早く、これ程も簡単に壊滅させてしまったことである。第18パーティーが救援に到着したのは、異変に気がついてから25分後のこと。つまり、敵は25分の間に十数人で構成された精鋭パーティーを壊滅させ、弄び、そして跡形もなく現場から姿を消すことが出来る。そうだとすれば、敵の推定レベルは恐らく120以上のほぼチート級の強さを誇ることになる。

「そんなの無理ゲーじゃねーか。」

 遠山が言っていることは充分わかる。これがゲームだとすれば圧倒的戦力差、所謂『レベル差の暴力』でボコボコにされるだけ。

「それもそうだが、敵はこれをやったやつ一人だけじゃない。他に何人いるかも現段階でははっきりしていないんだ。少なくとも、一人殺人鬼が捕まったということは、まだいる可能性は否定出来ない。それに、これをやった犯人の居場所なんて誰も知る由もない。」

 犯人は逃走した。目撃者は税印殺害されている。その姿を見ただけで命を絶たれるとは、ある意味災害級の恐ろしさではなかろうか。

「今はネガティブになっている暇はない。まずは情報収集が第1だ。」

 迩摩が場の空気を察してか、全員に語りかけた。戦闘では士気の低下か大きな損害を巻き起こすきっかけとなり得る。常に事をポジティブに考えることも重要なことだと言えるだろう。

「とりあえず、遺体回収は近隣の他のパーティーに任せるか。」

 18パーティーの連絡を聞いて近くまで来ている他パーティーも多い。戦闘特化で他に比べて少数編成の自パーティーが遺体回収を行うよりかは、人での多い他のパーティーに任せるのが妥当だろうとの考察だ。

「それじゃあ、全パーティーに捜索要請を。特徴は…………とにかく強い。」

「特徴一つしかないとか鬼畜かよ。」

「しょーがねぇじゃん。目撃者すら逝っちまってるのに、情報なんてほとんど無いに等しいものだろ?」

「それもそうだな。」

 すると、不意に陽人へ魔力通話の呼び鈴がなった。掛けてきたのは風呂屋の婆さん。

「はいはいもしもしー?」

「九条………大変だ。殺人鬼が会館に侵入した……。」

「…………は?」


 ◆


「なに…………こいつ………。」

 ましゅまろ*のギルドリーダー與茂闇 彩香よもやみ あやかは、その徒ならぬ雰囲気に一歩、二歩と間合いを取る。

 殺人鬼……いや、これはもはや殺人鬼の領域ではないような気がする。身に溢れる殺気を感じた。誰でもいいから殺したい、一人でも多く殺したい、そんな恐ろしい感情がにじみ出ているような気さえする。いずれにしろ思うも事はただ一つ。

「………こいつはヤバイ……。」


「主犯格………」

 婆さんの呟きに、エリカとエリナは耳を傾ける余裕すらなかった。恐怖で足が生まれたての子鹿状態になり、少しでも気を抜くと地べたにへたり混んでしまいそうなほどであった。

 鼻から口にかけて包帯で包まれ、どのような顔立ちかは想像すらできない。だが炯々として人々を睨みつけるその眼光は、目を合わせたくないほどに恐ろしいもので、高身長かつやせ細ったその体軀は人々を威嚇しているかのようであった。

「こわ………い………。」

 目尻に涙をためて恐れ戦く隣のエリナを見て、エリカはコイツが只者でないことを再確認した。

 すると、男はスラリと腰から刀を抜いた。抜刀した刀身は景色を映し出すほどに鋭く、男はその刀身に浮き出るダマスカス模様を徒に見せつける。暫し刀を眺めてから、男は呟くのだった。

「さあ…………次はお前だ。」

 と。

「下がって!!」

 與茂闇率いるましゅまろ*のギルドメンバーが殺人鬼の対応にあたる。それぞれ抜刀したり杖を構えたりして戦闘準備に入る。しかし、男は至って余裕な様子であり、むしろ我々を見下し嘲笑うかの様であった。

「戦闘、開始。」

 與茂闇がそう言い放った瞬間。

「おっと、そこから動くな。」

 男がそう言い放つと、刀身がら紫色の瘴気が放出される。瘴気は瞬く間に部屋へと広がっていき、ましゅまろ*のギルドメンバーを次々と飲み込んでゆく。

「な、何これ………体が……動かな………」

 そう言い残して倒れ込む與茂闇を発端に、まるでドミノが倒れるように連鎖的にその場にひれ伏すましゅまろ*のメンバー達。

「うっ……くっ……ま、麻痺毒…!?」

 男は與茂闇へと歩み寄り、刀を首元へと突きつけた。

「身体が動かないだろ…?余計なことをしなければいいものを…。さあ、ゲームの時間だ。」


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平和な主夫をしたいだけ クロケチャペ @Kuroke222

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