第13話
「おはよー。」
「あれ?帰ってきてたのか?」
遠山が少し驚いて問いかける。
「ああ。昨日はギルドに止まることにしたんだよ。」
「そーなんか。二人は?」
「部屋で寝てる。まだぐっすりだよ。」
「そうかい。」
遠山はどっこらしょと呟きながら、ソファーへ腰掛けた。
「年寄りみたいな事するなよ。」
「いやぁ、最近年取ったなーって」
「お前まだ20代だろが。」
苦笑しながら陽人は新聞紙を広げた。相変わらず一面は殺人鬼の話題で持ちきりである。
「また昨日もあったらしいな。」
「ああ。今度は3人の遺体が発見されたとか。もうただの殺人じゃなくなってるぞ。完全に計画的なものだ。」
昨日の夜に見たもの………あれが殺人鬼なのだとしたら、敵は相当な用意周到ぶりである。
だって太刀にハルバードだぞ!?完全に殺しに来てるじゃん!こっわ!!
「犯人の詳細はわかってないらしいな。」
「いや、わからんぞ?公表していないだけで、もう既に経歴と名前は特定済みかもしれない。」
「だといいんだが……。こればっかりはダークホースの奴らの仕事だからな………。」
◆
〜再開発地区 第三区画〜
古びた建物が立ち並ぶかつての繁華街。昔は賑わいを見せたここも、新都市市街区が発展してからはめっきり人通りがなくなってしまった。そんな再開発地区に未だ立ち並ぶのは、クスリの密売や麻雀・ダーツ・ビリヤードなどのノミ屋、昔からの喫茶店や武器屋くらいしかない。
そんな再開発地区に軒を構えるある武器屋の呼び鈴を、一人の男が鳴らした。
「いらっしゃい。」
「…………」
薄暗い店内には蝋燭の灯火が幾つか揺らめいていた。壁やショーケースにずらりと並べられた武器は、遠距離の物から近接距離の物まで全て置いてある。
その男は小さな店内を一通り歩き回って品を吟味した後、店主の座るカウンターに置かれていた灰皿にタバコの灰を2回落として店主に尋ねる。
「……ここに『
店主はウイスキーの入ったスキットルを男に手渡した。
「飲め。これより先はアルコールが必要だ。」
案内されたのは店の地下であった。石レンガで作られた細く狭い通路をゆくと、古びた木製のドアが現れる。店主は何個も繋がれた鍵から一つの鍵を選択し、鍵穴に差し込んだ。
ガチャリと鈍い音が響く。
ドアが開くと、そこには紫の瘴気を放っている一振りの太刀が刀掛けに置かれていた。
「これが、『裂刀・旭日丸尾日刀』だ。」
「おぉ…………これが…………」
男は味わうようにその刀身を見つめた。
刀身には美しいダマスカス模様が浮き出ている。赤と黒で構成された洗練なデザインは最早芸術であった。
その美しさに男は思わず手を伸ばすが……
「触るのはやめておけ。」
店主の静止が入って男はその手を引く。
「その刀は持ち主しか受け付けない特殊な刀だ。紫の瘴気は毒だ。この部屋にも充満していて、少しずつではあるが俺らにダメージを与える。さっきウイスキーを飲んだが、あのウイスキーは特殊な製法で作られた解毒作用のあるものだ。だが、あまりこの部屋には長居できない。買うかどうかは早く決めてくれ。」
「………買うさ。今すぐだ。」
男の目は凶器のように恐ろしいものであった。
「それ一つで308万だ。買えるのか。」
「ああ。そのために今日までこいつで斬ってきた。」
男は鞘からスラリと手持ちの太刀を抜いた。刀身はひどく欠けていて、その性能は包丁の方がましであろうが、店主はその刀の名を知っていた。紛れもない名刀である。
「……面白い。上に来い。金は多少まけてやる。」
◆
「………というわけだ。そこで、ギルド『遊星の虹』に殺人鬼討伐の救援を要請する。」
予告もなしに突如押し掛けてきたダークホースの戦闘参謀、新山 新大から伝えられたのは、正直受けたくはないものだった。
「まあ、お前らダークホースでも手に負えなくなったって事だろ?それなら仕方ない。ギルド連合協会内でも強豪のお前らのギルドでさえ手に負えないとなると、こりゃもうただ事じゃないな。」
「昨日今日の2日間で18人も殺害された。一人の犯行じゃない。犯人は複数人いると考えた方がいい。」
「主犯格は?」
「未だわからないが、おおよその検討はついてる。こいつだ。」
新山がテーブルの上に出したのは、狩人個人明細書であった。
狩人個人明細書とは、狩人として本業についた時に誰もが作る証明書的なもの。名前や住所、年齢、生年月日、所属ギルドや個人の経歴まで細かく書かれている個人情報の塊である。
「綾乃馬
「すげぇ名前だな。」
いかにも混乱しそうな名前である。てか、どっかのお坊さんにこんな名前の人いなかったか?
「もちろんではあるが、今回の殺人鬼討伐作戦には五月雨やKWtJなどの大手ギルドも参加予定だ。」
「大規模な作戦になりそうだな。」
「作戦開始は明日午後8時からだ。各自準備・装備点検等を行ってくれ。」
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