第12話

 魔力で灯る街灯が薄白く道を照らす。深夜の街はどことなくミステリアスな空気に包まれ、またその雰囲気を好んで外出する者も少なくない。

 夜は古くから神・悪魔・妖怪が跋扈する世界とされる。事実夜行性のモンスターは昼行性のモンスターよりも個体数が多く、地上では深夜が一番モンスターの活動が活発化する時間帯である。そんな最中、深夜の東京地大都市である事件が問題として挙がった。

「殺人?」

「そうだ。昨日の夜中、中枢市街区での事だ。遺体が見つかったのは今朝のことらしい。」

 遠山は陽人に新聞を投げ渡す。

 開くと一面にでかでかと見出しが書かれていた。

「『市街区で遺体発見。謎の殺人鬼の正体は?』か。ふーん。市街区で事件とはまた珍しい。」

 市街区はダークホースの警備が日夜行われており、人気も多いため、殺人などの凶悪犯罪を行うことはまず難しいと考えるが……。

「遺体は頭部と胴部が完全に切り離されていたらしい。」

「うわぁ………首チョンパかよ。えぐい事するねぇ。」

「遺体には切り傷で"ⅩⅦ"と刻まれていたそうだ。」

「17ねぇ。」

「俺なりの考察だが、17って数字はイタリアでは不吉な数字だ。"ⅩⅦ"って書くだろ?これを並び変えれば"VIXI"となる。これはイタリア語で"I lived"っていう意味で、墓に刻まれる文字だ。もしかしたら、この不吉な数字を使ってるのかもしれない。」

「なにそれこわい。」

 なにか意味があってつかってはいるのだろうが、そんな都市伝説の暗号みたいな使い方は気味が悪いからやめて欲しいものだな。カッコイイけど。

「しかしどうするんだ?ことままだとみんな怖がってろくに外出もできなくなるだろうし、何より街中に遺体が放置されるのは流石にショッキングだろ。」

「ダークホースが警備を強化しているらしい。街全体を常時400人規模で警備しているとか。場合によっちゃあ戦闘もありえる。他のギルドに救援要請が行くかもな。それはここのギルドもまた然りだ。」

 ギルド『ダークホース』は、凶悪犯罪の取り締まりや街の治安・秩序維持活動を行っている唯一のギルドである。ギルド連合協会に加盟しているギルドと連携し、テロや反乱などの大規模な事件が起こった場合は、それらを鎮圧するために他のギルドに救援要請をすることも出来る。

「いずれにしろ深夜帯の外出は避けた方がいい。お前夜に出かけること多いだろ?」

「だって、夜ってなんかテンションあがんね?」

 ちょっと腹立つ感じに喋る陽人をみて、遠山は一つため息をついた。

「ほんとに大丈夫かねこいつは………」

「ダイジョブだって。そこまで馬鹿じゃないんだからさ。」

「ほんとかいな。少なくともお前には守るものがあるからな。」


 その日の夜も、陽人一行は温泉に来ていた。

「いいなお前ら。婆ちゃんからコーヒーミルク貰いやがって。」

「ふふーん。いいでしょー。パパにはあげなーい。」

「ほ、欲しくなんてないもん!!」

 時刻は20:30。深夜までは時間がある。お湯から上がって10分ほど経つが、やはり家の沸かした湯とは違って湯冷めしない。3人ともさっぱりして家への帰路に付いた。

「いやー、さっぱりさっぱりー。」

「………温泉はいい。なかなか…疲れが取れる。」

 2人も温泉が気に入ったようで、陽人はなんか嬉しい気持ちになる。

「さーて、帰ってアイスでも食うか。」

「「食べるー!」」

「おけー。そうと決まればさっさと帰って………」

 その時であった。大通りから道をそれた路地裏。人影が見えた。二人……1人は壁に凭れ、腹からは刀が生えている。もう1人は身長175cm位、肉付きから見るに男性。黒色のフードの付いたコートを着ていた。

 陽人は咄嗟にエリカとエリナを連れて建物の影に隠れる。

「パパ?どうし………」

「しー!静かに。いいか、絶対喋るな。」

 路地から男が出てくる。

 やや猫背。フードは常にかぶったままなのだろうか。街灯に照らされ顔が見えると思ったが、フードに隠れていて口元しか見えず、口元も包帯が巻かれていてその表情すら想像出来ない。両手には刀、背中には大型のハルバードを携えていた。そして黒い手袋には"ⅩⅦ"と文字が刻まれている。

 さながら死神のような様相であった。見ただけでもヤバイやつだと誰でもわかる。

 暫く男はブツブツと何かを話していたが、最後にはっきりとこう言い放った。

「……次は、お前だ。」

 と。

 そう誰かに告げるや否や、男はジャンプ一つで建物を超えていき、どこかへと消え去ってしまった。

 おいおいマジかとは思うが、どうやら殺人鬼の行動時間は夜中に限らないらしい。だとすれば、もし昼間でも活動しているとしたら?人の多さを利用した爆破テロや通り魔なんてのを計画していたら?そうなってくると多くの犠牲者が出る前に、一刻も早く犯人確保に乗り出さなければならない。

「エリカ、エリナ。予定変更だ。ギルドに行くぞ。今日はギルドでお泊まり会だ。」

「「ほんと!?アイスは?」」

「途中で買ってくさ。」

 お泊まり会は建前で、本当は二人の身の安全を確保するためである。街中でも行動するのならば、我が家のある治安の悪い再開発地区ではもっと活動しやすいはず。ならば、いつでも誰かしらいるギルドにいた方がよっぽど安全であるということだ。

「さ、行くか。」

 陽人は再び二人の手を引いた。


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