第8話

 太陽は遠野に沈みかけた頃だろう。

 東京地下大都市の中心にあるギルド連合協会会館の大会議室には、ギルド連合協会加盟のギルドの長が集っていた。

 東京に本拠地を置くギルド17組織の内、10のギルドのギルドリーダーが集まっている。


 国内最大級のギルド『五月雨』。

 秩序を守るために創設されたギルド『ダークホース』。

 強豪戦闘ギルド『KWtJ』。

 国内最多加盟総員数をほこるギルド『鈴響会』。

 唯一無二の女性オンリーギルド『ましゅまろ*《アスタリスク》』。

 類まれなる専門性で圧倒的な戦力を持つ戦闘ギルド『毒卯どくう』。

 初心者から古参まで幅広い狩人が加入するギルド『東風の宴』。

 商業系ギルドの原点とも言える『ラドランシェ』。

 名前によらずめちゃくちゃ強いギルド『自宅警備隊』。

 そして、我らが『遊星の虹』。

 どれも日本全国に名を連ねる有名ギルドである。

 中でも枢核となるのが『五月雨』、『ダークホース』、『KWtJ』、『鈴響会』の四つのギルド。これらのギルドは日本四大ギルドと呼ばれ、討伐系ギルド・統合戦闘系ギルド・商業系ギルドの三種類の各系列のうちの最大勢力である。

 人数や財力も他のギルドに比べ桁違いであるが故に、彼らが首を縦に振るかの横に振るかで方針が決まってしまったりする。

「只今より、ギルド連合協会要人臨時会合を始めます。」

 切り出したのは遠山であった。会合の主催者であるためか、必然的に切り出した。

「今日の議題はなんだ?突然呼び出して、ろくな内容じゃなかったら帰るぞ。」

「まあそう急かすな。今回は重大案件だ。」

 机の上に頬杖をついてカリカリしているのは、ギルド『ダークホース』のギルドリーダー竃淵 亮哉かまぶち りょうやである。

「重大案件なら早く言えよ。日が暮れるぞ。」

「まてまて。その事については九条から説明がある。それに日はもうとっくに暮れてるんでな。じゃ、陽人。よろしく。」

「おっけ。」

 遠山が席にかけると同時に、陽人は椅子から立ち上がる。

「皆さんお久しぶり。ご無沙汰しております、九条 陽人です。」

「………九条…最近見ないと思えば、流石に生きていたか。」

「バカ言わないでくれ竃淵さんや。ちょっと面倒くさくなって部屋にこもってただけだ。」

「久しぶりではないか九条くん。私と最後にあったのは二年前だったかな?」

 懐かしそうに語るのはギルド『鈴響会』のギルドリーダー、鬮原 吏仁くじはら りひとである。

「そうだな。もう二年にもなるか。だが、昔話している暇はない。本題は皆さん大好きエンシェントドラゴンの事だ。」

 場の空気が一気に凍りつくのが分かる。

「今日の午後4時くらいだ。フィールド『城跡』にてエンシェントドラゴン一体の出現を確認した。俺もこの目で見た。」

「見たと言うのか!?」

「ああ。しかも俺だけじゃない。遠山も同じく目撃しているし、その場にいた多くの上級狩人全員が目撃した。」

「個体の詳しい情報を教えてくれ。」

 冷静な口調で問いかけてきたのは、ギルド『KWtJ』のギルドリーダー川辻 綾乃である。

「おけおけ。基本情報ではあるが、体長は18mほど。体色は紅赤。角は二本で、右の角が左の角の丁度3分の2くらいの長さだ。」

「130歳……いや、それ以上か。」

 エンシェントドラゴンの年齢は角の数と長さ、体色で見ることが出来る。平均的な寿命は400~500歳とされており、歳をとるにつれて体色は黒ずんでいく。

「前回のレイドは、エンシェントドラゴンの年齢は450歳以上の老いぼれだったな。そうなると今回のは………」

「そうだ。前回のエンシェントドラゴンの子供の可能性が高い。」

 前回のレイドが行われたのは二年前。その時点ではエンシェントドラゴンが二体いるという情報はなかった。仮に子供であれば、戦闘中にいなかったのは幸運であったと言えるだろうが……

「仮に子供でなかった場合、こいつはどこから来た?」

「…………分からない。別の場所で生まれた個体なのか、完全に国外から渡ってきた個体なのか、もしくは………次元断裂がもう一度起こってやって来た個体なのか。」

「三つ目の意見はまず無いだろ。断裂が起これば魔力原枢石の魔力がリセットされて、この世の全ての魔力が原枢石に戻る。そうなれば魔力も何も使えなくなって一大事だ。」

 と力説するのはギルド『五月雨』のギルドリーダー城倉 邸斗じょうくら ていとである。

「だとすれば、考えうるのは一つ目と二つ目か。」

「んな事言ったって、国外から渡ってくるなんてことはありえるのか?」

「分からんな。国外はおろか、国内のことですら情報交換が精一杯の状態だ。国外の事情なんて知る由もない。」

「ならば二つ目の説は保留か。ということは、別の場所に卵を生んで、それで孵化したやつがやって来たか。」

「それも分からんな。前回のレイドのエンシェントドラゴンが雌で、その前のレイドのが雄、もしくはその逆ならばあるかもしれんがな。」

 エンシェントドラゴンはその個体数の少なさ故に生態が未だ明らかとなっていない。どんな地形を好んで巣を作るのか、定住しているのか、孵化までの時間や子育て期間などなど謎が多く残る。ギルド連合協会が躍起となってその個体を探すのも頷ける。

「ならば調査が必要だな。」

「ああ。自宅警備隊、調査を依頼できるか?」

「俺達は一向に構わん。」

『自宅警備隊』ギルドリーダー、笹ヶ峰 涼真ささがみ りょうまがコクリと頷く。

 自宅警備隊は人数が32人と少ない人数ではあるが、個々の技量は凄まじいもので、全員のレベルが95以上の超精鋭である。名前があれだからといって舐めてはいけない。

「それじゃあ、頼むよニート。」

「その呼び方はやめろ。」

「レイドは?エンシェントドラゴンが出てきてしまったならば狩場にも影響が出るし、何より生態系が崩壊しかねない。」

「分かってる。それならば調査が終わってからの方がいい。何せ今回の個体はまだ若い。前回の様に一筋縄ではいかないだろうな。」

「じゃあ一応レイドも視野に入れて調査を進めるとしよう。」


 会議室の空気は一層張り詰めていた。

 突然の大物襲来。全てのギルドが想定外であった。

 今わかっている情報では、エンシェントドラゴンの巣は富士の樹海の奥地にある。約200年周期でそこへエンシェントドラゴンがやって来るというのが今までのセオリーであり、実際その通りであるのだが、今回は違った。早かったのだ。しかも、樹海に現れるのではなく、現れたのは関東平野。今までにはなかった出来事であった。

「なあ、遠山。何かがおかしいと思わないか?」

「ああ。周囲から外れている。出現場所も大きくそれた。何より、個体はまだ若い。」

「そうだな。何が起こっている………。」

 陽人は今までにない違和感を感じざるを得なかった。

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