第7話
「どんな髪型にしたい?」
「………ショートボブ。」
帯刀はエリナの髪を櫛でとかしながら、優しく問いかけた。
「じゃあ、髪切るよ。」
シザーケースから取り出した梳きバサミを使って、櫛で髪をとかしながら末端が並行になるように髪を切っていく。
「お姉さん、髪切れるの?」
エリカが意外そうに問う。
「まあねー。昔美容師を目指したことがあってね。まあ、結局諦めたんだけど。」
2人の面倒を見てほしいと言われたものの、実際のところ何をすればいいのか思いつかなかったので、すっかり伸びきった2人の髪を切ってあげようと思った次第である。お陰で敵対心むき出しだった二人の心も隙ができて解れたようで、いまではリラックスした様子。
「よし、できた。」
帯刀は前髪を櫛でとかし終えて、少し離れてバランスを確認する。
「どうよ?」
鏡を確認したエリナは、自分の髪をファサファサと2、3回触って
「………うん、いい。ありがとう。」
とつぶやく。
「どういたしまして。エリカちゃんも切る?」
「私はこのままでいい。」
「じゃ、髪型だけ変える?」
「うん。」
エリカは椅子にちょこんと座った。
「どんな髪型がいい?」
「ツインテール!」
「案外普通だなー。」
長い髪にスプレーで水を吹きかけて程よく濡らしてから髪を梳く。
「ねぇ、お姉さんはパパのこといつから好きなの?」
「うぐっ………その話を今ここでか……。」
来るとは思って身構えてはいたが、いざ暴露となると恥ずかしいものがある。でもそういう話が好きなのも女の子なんだなーって実感してしまい、なんだか自分がおばさんくさく感じてしまう。
「そうだねー。気づいたらかな。いつの間にか好きになってた、的な。」
やべーよこれめっちゃ恥ずかしいよ。
「二人はお父さんのこと好き?」
「「すきー!」」
その元気な声を聞くや否や、ああ、なんて純粋な子達なんだと心が消化される帯刀であった。
「よし、こいつで最後っと。」
陽人はワイバーンの喉元にさくりと剣を突き刺す。引き抜けばたちまち血しぶきが上がり、陽人は刀身に付いた血液を払いとる。
「お疲れお疲れ。いやーしかし疲れたなー。」
一足先に素材剥ぎ取りを開始していた遠山が、陽人の苦労を軽く労う。
「全くだ。飛び道具なしでワイバーン倒そうなんて頭いかれてるわ。」
「その作戦はどっかの双剣使いの作戦だったがな。」
「お!!こいつ魔結晶持ってんじゃん!!」
流れるようにスルーする陽人。
「魔結晶か。何気に便利だからいいなー。」
魔結晶は稀に体内で生成される魔力が固まって結晶化したもの。ワイバーン同様、ドラゴン・龍系モンスターに見られ、装備の強化や装飾品に重宝する。
「しかしなかなか大漁だな。ワイバーン素材ががっぽがっぽだぜ。」
「ああ。今夜はワイバーン肉で焼肉パーティーだな。」
そんな感じで夢中で剥ぎ取りを進めていると、突如空を舞うワイバーンが騒ぎ出す。
「な、なんだ?」
次々とフィールドから逃げていくワイバーン。すると次の瞬間。上空を巨大な翼竜が通過する影が地上に映った。
「あ、あれは………」
「………『エンシェントドラゴン』…。」
巨大な脚でワイバーンを鷲掴みにし貪り食べるその姿はまさに王者の姿。古代龍の異名を持つ『エンシェントドラゴン』は体長18m、硬い甲殻を纏った赤色の体軀に鋭い眼光、尖鋭たる双角は頭部後部へと反り返り、巨大な翼は陽光を遮る。
「まずい……」
そこにいる誰もが動きを止めた。いや、恐怖ですくみ上がったと言うべきか。エンシェントドラゴンは生態系第4番目のボス的モンスター。エンシェントドラゴンの討伐を目的としたクエスト『樹海の双眼』は超難関レイドクエストで知られ、今までの成功はたったの3回のみ。そのどれもが総員150名以上を動員して行われた大規模レイドである。
エンシェントドラゴンが息を吸い出す。
「嘘だろ……まずい。ブレスだ。」
ブレス前の溜めとして、必ずめいっぱい空気を吸い込む。その際、高熱でエンシェントドラゴンの口の中は赤く発光し、口からは多量の水蒸気と二酸化炭素が煙となって放出される。そして、ある程度エネルギーを溜めたエンシェントドラゴンは、その膨大なエネルギーを超高温の熱線として口外へ放出する。
上空のワイバーンが次々と焼け焦げて地上へと落ちていく。それを一つ一つ啄んで食すエンシェントドラゴン。まるで料理しているかのようであった。
そして暫しの間王者たる風格を見せつけたエンシェントドラゴンは、巨大な翼を翻して空へ帰っていった。
「…………これは、焼肉パーティーどころじゃないな。」
「ああ。すぐにギルド連合協会に主要人を集めて会合だ。」
「ただいまー。」
「おかえりパパー!」
「お父さん…おかえり。」
ギルドに戻った陽人だが、出迎えたエリカとエリナが見違えるほど可愛くなっててキュン死しそうになる。
「二人ともどうしたこの髪型?」
「私がやってあげたんです。」
帯刀が奥から出てきて、誇らしげに言ってみせる。
「そういえばお前、美容師目指してたんだっけ?」
「そうですよ。もう、女の子2人を美容院に連れていくことすらしないで。可哀想に。」
「うっ……ごめんなさい。」
だって忙しかったしとか言い訳すると、絶対めんどくさいことになると思って陽人はぐっと堪える。
「それで?クエストはどうでした?」
「ああ。もう大量だよ。今夜はワイバーンの肉で焼肉パーティーだ……と言いたいところだが。」
「………遠山ギル長がいないところを見ると、何かあったんですね。」
「まあな。端的にいえばエンシェントドラゴンに遭遇した。」
帯刀の表情がみるみる険しくなる。エリカとエリナは状況が掴めていないようで、それだけは幸いと言ったところか。
「これから連合協会加盟ギルドのギル長を集めて緊急会合だ。俺もそれに呼ばれた。」
「どうするんですか?」
「分からない。場合によってはまたレイドクエストが発生するかもしれない。とりあえず、エリカとエリナはまたお願いしてもいいか?」
「それは構いませんが………」
帯刀は2人に視線を落とした。
心配そうな表情で見上げるエリカとエリナ。
「パパ、またどこか行くの?」
「ああ。少し仕事が増えてな。ちょっと行ってくる。」
「………私達も……」
「お前達は……まあ、行くことが出来ない訳では無いが」
ぱぁっと二人の表情が晴れる。
「でも死ぬほどつまらないぞ?」
再び表情は暗くなる。
「そ、それでも……行きたい!!」
「んまあ、たって見てるくらいなら出来るから……帯刀付いていてやってくれないか?」
「了解です。」
「よし。じゃあ二人とも、準備しな。」
「「はぁーい!!」」
エリカとエリナは元気に駆けていくのだった。
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