第2話

「2人ともー、準備できたか?」

「「オケー。」」

「よし、じゃあ行くか。」


翌日。陽人たちはドアに施錠して、中心市街地へと歩みを向けた。

東京地下大都市。日本の首都機能は全てここに集中している。1400年前、第一次次元断裂。次元境界面の裂け目が広がり、日本本土には異世界より大量のモンスターや異種族が流れ込んできた。

古くより予測されてはいたが、断裂面は渋谷スクランブル交差点上に発生し、多くの犠牲者を出した。以来、人々は日本国内4箇所に造られた地下都市で1400年の間暮らしている。地上は文字通りモンスターの楽園、異世界と化していた。人間の居ない、モンスターのみが生息する世界。そのモンスターを狩って生活するのが、我々『狩人』である。


「おじゃましゃーす。」

「おぉー。上条の兄ちゃんいらっしゃい!」

威勢のいいゴツイ体格の中年男性が、明るい笑顔で出迎える。めちゃくちゃごつい店主であるが、一応この店は呉服店である。店主は俺がルーキーの時からの知り合い、西島 にしじま たける。ゴツイが子供大好き。

「なんだい?なんだい?そこのかわい子ちゃん2人組は?ついに子供できたんか?」

「あぁ、コイツらは………まあ、そんなもんかな。」

「え、それマジで言ってる?」

今までにこやかに喋っていた店主の表情が、唐突に真顔に変貌する。

「上条……嘘言っちゃあいけないぜ?なあ、冗談だよな?」

「いやマジだって。」

「………………保護か。保護したんか?」

「いやまあそうだけど。」

「なんだそうかー。ビックリしたわー。」

胸をなで下ろす店主。

そんなに俺に子供が出来たことが信じられないんか?実際出来てないけど!俺の子供じゃないけど!それでも信じられないのは悲しいぞ!!

「おじちゃん……」

エリカが、袖を引っ張って見上げながらに呟く。

「あ、そうか。この人は俺の知り合いだよ。このお店のご主人。ほら、挨拶して。」

「…………………こ、こんにちは……。」

エリカは俺の後ろに隠れてはそこから片目だけ覗かせて、恐る恐る挨拶をする。

「こんにちは。」

「エリナ。あいさつは?」

エリナは大人しいが故に少し人見知りな性格である。陽人の後ろに隠れて、ブンブンと首を横に振って拒否する。

「はぁ、少し人見知りなんで。」

「そうか。そりゃ残念だ。」

「なにかいい感じの服ないすかね?こいつら、今来てるやつしか服がなくて……」

「オケ。そんじゃ俺の超絶的ファッションセンスでこのかわい子ちゃん二人を着付けてやるぜ!」

店主は気合十分。もうこりゃファッションショーが始まりそうな勢いである。


そして案の定始まるファッションショー。

まず試着室から出てきたのは半べそ状態のエリカ。白地にカラフルな花柄があしらわれたワンピースを着ている。

「ワンピースを着てたから、ワンピースは気なれてると思ってな。どうだ?」

「うーむ………良きかな…。」

「はい次ぃ!」

次に出てきたのはエリナ。こちらは少し恥じらいの表情。ワンピースはエリカと同じものを着ているが、頭には麦わら帽子を被っている。帽子のつばをちょっと下げて顔を隠すところが、これまたグッと来るんですわぁ……。

「なるほどペアルックか。」

「ああ。双子ということでなんかいいだろ?」

「確かに良きかな。」

「おっしゃ、次ぃ!!」

その後も続々と衣装が変わる。ここまで来ると、おっさん2人がロリ少女を着せ替えしているようにしか見えない。なんだこの犯罪感……。結構な量を試着したが、二人とも合わせて計12着のお買い上げである。

「えーっと……12着で15,600円になりやーす。」

「うぅ〜……金欠じゃー……(泣)」

「お前クエストで金がっぽがぽだろ?つべこべ言わんではよ出せや。」

「へいへい(泣)」

陽人は泣く泣く財布から札と小銭を出した。

「はい丁度、毎度ありー。」

「ふぃ〜。エリカ、エリナ、行くぞ………っておうふ!?」

エリカとエリナは、店の壁の隅っこの方で口から煙を出して伸びていた。

「伸びてんなー。」

「疲れたんだろ。」

「お前がファッションショーするからだろ。」

「……………テヘペロ☆」

「キモスッ!!!」


陽人一行は、再び街へと繰り出した。

「おじちゃん!次はー?」

「んー、次はお楽しみだ。」

やって来たのは『ギルド連合協会会館』。ギルド連合協会の本部である。ギルド連合協会の主な役割は銀行的役儀、狩人へのクエストの発行、市街地の整備管理などである。

しかし、ギルド連合協会会館にはある物が保管されている。現在の人々には欠かせないもの。それは………

「着いたぞー。」

「うわぁ!」

「……すごい。」

眼前には高くそびえる紫紺に輝くクリスタル。その名も『魔力源枢石まりょくげんすうせき』。第一次次元断裂の破片とも言われるこの鉱石は、日本本土全域に魔力の根脈を張り巡らし、絶えず魔力を放っている。全ての魔力はここが源である。

「現在の高さが109m、横幅は58m。年に0.2mmずつ縮小している。いずれこの鉱石は尽きるだろう。その時は、俺達は魔法が使えなくなる。」

その壮大さと美麗さたるや。二人は圧倒されて声も出ず、ただ口を開けて鉱石を見上げる事しか出来なかった。

「………そろそろ行くか。」

「「うん。」」


「ただいまー。」

眠目を擦りながらなんとか歩いて帰ってきたエリカとエリナは、家に着くや否や早速ベッドの上で寝息を立てた。

「まぁ、そうなるわな。疲れたろうに。」

陽人もその様子を見ているだけで睡魔が襲ってくるようで、思わず欠伸をしてしまう。

「おっと、いかんいかん。晩飯でも作るか。」

スヤスヤと眠る二人の寝顔。陽人は金色の美しい髪を優しく撫でる。

「俺に出来ることは、コイツらに色々な経験をさせてやることくらいしか……」

その時。ふと搔き上げた髪の陰から、三角の形をした耳が覗いた。

陽人の動きが止まる。人間の耳ではない。明らかに形が違う。

「……これは……まさか……」


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