甘き死の中で

アオベエ

Sweet Death

 あんなに僕を悩ませた皆が今は愛おしい。

 今や僕は己の肉体を離れ空に溶けようとしている。

 僕の肌が最後に覚えているのは、彼女の柔らかいお腹の感触だった。


 空をレディ・ゴディバの様に駆け回りながら地上を見おろすと、街の電燈の他に様々な電飾が施されている。そうか今日はクリスマスだ。

 あの、きらびやかな街の中にまだ見ぬ君もいるのだろう。


 月光が一糸まとわぬ僕を照らしている。

 このままどこまでも行こう。誰も僕を止めないでくれ。

 あぁ君もくればいいのに、そんなに着飾って争って憎しみあって愛しあって。


 最高の気分だ、体は火照ってちっとも寒くない。

 誰も僕を止められない、あっちもこっちもそっちも此処になったから。

 エントロピーから解放され今や僕は可逆になり時となったから。


 此処は存在という祭りの中の特等席。

 此処から見る景色は皆透き通っている。





 あんなに皆を悩ませた僕が今は愛おしい。

 今や、けだるい日々は過ぎ去って罪悪に悩む事もなくなった。

 全ての罪もまた僕になったから。


 だから今は、皆に敬意と感謝を伝えたい。

 争いや命を奪うそれも、僕の愛したそれも、今や全て大切になったから。


 君が探す透明な幽霊は此処からならよく見える。

 可逆的な僕から見れば君もまた、その透明な幽霊の一人だから。


 存在という現象に意味はない。

 現象には理由はあっても意味はないから。

 存在という祭りの中で君は意味を見いだし、喜び悲しみ憎しみ愛しあっている。


 空へ昇る速さは光を超える。誰も僕を止められない。

 僕は光の炎に焼かれて空に溶けていく。

 銀河を走る鉄道も月の姫も星の王子も、皆が僕になっていく。


 あぁ君もくればいいのに、悲しみなんて地上に残してどこまでも。

 行くあては二人で探そう。



 

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甘き死の中で アオベエ @aobee

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