甘き死の中で
アオベエ
Sweet Death
あんなに僕を悩ませた皆が今は愛おしい。
今や僕は己の肉体を離れ空に溶けようとしている。
僕の肌が最後に覚えているのは、彼女の柔らかいお腹の感触だった。
空をレディ・ゴディバの様に駆け回りながら地上を見おろすと、街の電燈の他に様々な電飾が施されている。そうか今日はクリスマスだ。
あの、きらびやかな街の中にまだ見ぬ君もいるのだろう。
月光が一糸まとわぬ僕を照らしている。
このままどこまでも行こう。誰も僕を止めないでくれ。
あぁ君もくればいいのに、そんなに着飾って争って憎しみあって愛しあって。
最高の気分だ、体は火照ってちっとも寒くない。
誰も僕を止められない、あっちもこっちもそっちも此処になったから。
エントロピーから解放され今や僕は可逆になり時となったから。
此処は存在という祭りの中の特等席。
此処から見る景色は皆透き通っている。
☆
あんなに皆を悩ませた僕が今は愛おしい。
今や、けだるい日々は過ぎ去って罪悪に悩む事もなくなった。
全ての罪もまた僕になったから。
だから今は、皆に敬意と感謝を伝えたい。
争いや命を奪うそれも、僕の愛したそれも、今や全て大切になったから。
君が探す透明な幽霊は此処からならよく見える。
可逆的な僕から見れば君もまた、その透明な幽霊の一人だから。
存在という現象に意味はない。
現象には理由はあっても意味はないから。
存在という祭りの中で君は意味を見いだし、喜び悲しみ憎しみ愛しあっている。
空へ昇る速さは光を超える。誰も僕を止められない。
僕は光の炎に焼かれて空に溶けていく。
銀河を走る鉄道も月の姫も星の王子も、皆が僕になっていく。
あぁ君もくればいいのに、悲しみなんて地上に残してどこまでも。
行くあては二人で探そう。
甘き死の中で アオベエ @aobee
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます