星を追いかけて

夕凪 春

星を追いかけて

夜もまだ深夜にいくかいかないかという時分。午前零時四十三分。

唐突に目が覚めてしまった。

もう一度目を瞑ってみるものの、ダメだ、眠れない。

そこに涌き始めつつあるこの高揚感は、この胸の高鳴りは、なんだ?

これといった答えは出ないまま布団を蹴り、飛び跳ね起きる。


静かな夜だ。

何故眠れない?生活リズムは規則正しい。

心配事などあるはずがない。

チクチクと胸が痛む気がした。

「私、遠くへ行ってしまうの」

心配事なんてない。

「だからもう会えないよ」

心配事はない。

「私の目をみて?」

ズキズキと、鈍い痛みだけが広がっていく。


思わず駆け出していた、午前一時二分。

それはもう届かないものだと知りながら。

大事にしたかったものだったのに、目を背けてしまった。


あの星を追いかけて。

この夜よ、明けないでくれ。

どうか隠さないでおくれ。

ずっと追いかけていたあの星を。


このままじゃ眠れないんだ。

せめてこの物語に結末を。

それがハッピーエンドでもそうじゃなくても、どっちだっていい。

ただ、確かな終末エンディングをくれよ。


あの星は相も変わらず奇麗だ。

それどころか、より輝きを増しているようだ。

直視などもはやできない。声も、もう届きそうにない。

そんな事くらいわかっている。

それほどまでに遠くへ行ってしまったんだ。


わかっているんだ。

それでもなお追いかけていたい。

ずっとずっと走っていたい。

眠れないんじゃない、眠りたくないんだよ。

いつかさよならを伝えられる

小さな奇跡が起こるその日まで。

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星を追いかけて 夕凪 春 @luckyyu

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