第十五話 ある殺し屋の挽歌

ある殺し屋の挽歌

 

 子猫だった。

 まだよちよち歩きの子猫だった。

「ニャア」と鳴いていた。生後一月くらいだったろう。

 おれは、抱きあげようとした。さっと身をかがめた。

 プシュと銃声がした。

 ゴールデン街の薄闇にマズルフラッシュが一瞬きらめいた。

 サイレンサーをつけていても光はかくせない。音だけは確かに低かった。

おれは耳もとに衝撃波を感じた。

 子猫を抱きあげた。逃げた。

 おそわれるのには馴れていなかった。

 銃撃の的にされるなんて、このおれが――。ふところで子猫が鳴いていた。

「おまえのおかげで、命拾いをした。おまえを抱き上げようと屈まなければ命はなかった」

 恐怖で全身グッショリと汗をかいていた。

 殺し屋が死を恐れるようでは、ヒットマンとしてはやっていけない。

 おれはその場から逃げた。都落ちした。

 ――あのときの子猫は、20歳になっていた。

「よく今までおたがいに、生きてこられたな。猫の20(ハタチ)は成人式ではない。いつ死んでもおかしくない歳だ」

 すっかり老けこんだ殺し屋はスーパーのカートを押しながら、独り語と。

 ふいにパンパンと銃声。

 子どもがオモチャのピストルで彼を撃った。

 彼は「ウッツ」とカートに上半身を倒した。

 ソノ見事なリアクションに撃った子どもは、びっくりしている。

 殺し屋のふところから老猫が転がり落ちて「ニャア」と鳴いた。


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