5 はるか未来の会話
5 はるか未来の会話
まどの向こうを赤い風船をもった子供達が走り過ぎる。舗石を蹴る爽やかな靴音の幻聴にとらわれた。華やいだ子供たちの掛け声が聞こえたようだった。空いたほうの手で友達をつつきながら通り過ぎていく。風船はぴんとはりつめた糸の先でゆらいでいた。
「最近あの頃の夢をみるようになった」
「あたしも……」
こんなかたちで……再会がはるか未来に準備されていたのだ。会話がぎこちなくなった。ぎくしゃくとしたままとぎれそうな不安にかられて、わたしはごく平凡な日常的な質問をした。再会するようなことがあったら……いくたびとなく繰り返した想像の会話は、とうに忘れてしまっていた。
「子供さんは?」
「結婚はしなかったわ」
気まずい沈黙がながれた。
「気にしないで……同棲はなんどもしたわ」
「娘がふたり。一番下が男の子。鶴巻小の六年生になる。創立記念のパレードでトランペットを吹くというので……」
「あら、じゃ……いってあげなきゃ。ひきとめちゃったわね。どんなお子さん。会ってみたいわ……」
丁寧に詫びて、後はいたずらっぽい口調でつづけた。
「平凡な子です」
「奥さん似てますの」
「ぼくに似ている」
「ますます会ってみたいわ」
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