6 インクがながれてにじんでいた

6 インクがながれてにじんでいた


 長すぎ空白がふたりの間にはある。すきで、すきでそれをいいだすきっかけをさがしていた。言葉はいらないほど愛しあっているとおもっていた。別れてきたばかりなの、また会いたくなって、稽古場まででかけていくこともあった。むろん部外者は入れて貰えないのを承知の上で、そんな未練がましいことをした。悶々とした日々を送っていた。そうしたある日、郷里の父が倒れたという知らせがとどいた。窓から舞い込む神宮の落葉樹の葉のようにハガキがとどいたのだった。

 母の書いた文字だった。

 文字は泣いていた。

 インクがながれてにじんでいた。


 風がつよくなった。

 あくまでもこばみつづける時子を残して街にでた。青山の街はもうすぐ木枯らしにみまわれる季節だった。神宮の森から降ってくる落ち葉に街の街路樹も共鳴して落ち葉を降らせていた。わたしはひとりだった。振り返ると、いまでてきばかりの彼女の下宿の屋根に日が落ちていた。彼女は追いかけてこなかった。わたしはひとりで、みじめだった。遠く故郷から離れ、夕暮れていく街にひとりぼっちだった。

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