第七章 東京にいっちっち

7 東京にいっちっち


 年月の風化のあとをきざんだ日本家屋がいたるところで壊された。

 街は構造改革のまっただなかだ。

 色あせた、いい風味をだしていた板壁がくだかれ灰になった。

 必然的にそうした家の部屋に棲息していた古く懐かしいひとびととの交流も、かれらの息づかいもとだえてしまった。

 

 ああいやだ。

 いやだぁー。

 東京に越したいよ。

 東京に戻りたいよ。


 東京にいっちっち、といかないもんでしょうかね。

 あれは水原茂だったかな。

 それは巨人軍の監督じゃない。


 いっちっち――は、守屋浩じゃない。

 なんだかまた混線してきた。

 ボケの谷間だ。

 アタマノナカハマッシロでござりますがな。

〈翁〉は幸せだと思う。

 蓄えがないぶん、妻の美智子さんも年をたくわえていないから。

 このぶんだとアシコシタタナクなっても世話してもらえるだろう。

 若い女房で、ヨカッタナ。

 巷の若い女はジジイを見ない。

 路傍の石。

 チットモ関心をしめしてくれない。

 さびしいなぁ。

 見られていない。

 視線でとらえる対象物として存在しないということは、存在していないと同じことだ。

 ジジイが、そこに、ここに、いるのに、視線は透過してしまう。

 あら、ここにだれかいるわ。

 といった目つきだけでもしてくれれば自尊心をきずつけられなくてすむのに。


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