第五章 孫に曳かれて文壇デビュー。

5 孫に曳かれて文壇デビュー。


アノトキハツラカッタワ。

どうしてもストンとスイトンを飲み込むことができなかったのだという。

スイトンを嚥下できない。

円が切り下げになったのをしっている。記憶にある。

美智子さんと縁があっていっしょになったが、お幾つなんでしょうね……??? 

あれ、美智子さんの記憶は第二次世界大戦のものではなく、第三次大戦? 

そんなのあったのかな……な。

だとすれば、美智子さんの話しているのはつい最近のできごとにちがいない。

美智子さんの若さを納得できるというものだ。

じゃ、おききします。

阪神淡路震災の時に長女の玲菜に子供がいたのだから、美智子さんの初孫がいた。

辻褄があいませんよね。

もっとも孫はミイマ、ミチコママとよびかけているからね。

あれは美智子さんの子供かな? そんなバカな。

ますます混乱する。

支離滅裂。

こうして考えが飛躍してしまうのがボケの始まりなのだろうな。

ボケルカモシレナイと、意識できるうちはまだだいじょうぶですよ。

といわれる。

ほんとはボケてしまったほうが、これ天国。

なんだろうが、いつになっても頭脳明晰。

こまったものだと〈翁〉はさほど困っていない頭でかんがえる。

そこで、ジジイとか〈翁〉という一人称代名詞がつかわれることになるのだ。

万が一ボケタ時のために伏線をはってジジイジジイというが、ここだけの話し自分では若い気でいる。

頭脳明晰。

そこでこうして、カナを多用する。

できるだけ使うのだって、古い文体と思われたくない願望の現れなのだ。

なにせ、テンエジャーが芥川賞をもらうゴジセイだから。

そのうち襁褓(むつき )。

おむつのとれない赤ちゃんが直木賞候補くらいにはなるかもしれない。

わが家系、孫のアリサとマリヤは文才がある。

とくにマリヤは乳母車のなかで原稿用紙にむかいだした早熟の天才だ。

よちよち歩きをはじめたばかりだった。

丹念に四百の升目に四百の丸をかいていた。

0が升目からはみだしていないのが凄いとみたり、ジジイバカ。

乳母車の前に本を積み上げておかないと泣く赤ちゃんだった。

はたせるかな、小学校一年生から文才を発揮した。

二年生になると童話をかきだした。

いまはまだ四年生だがパソコンで凄まじいはやさで文章をたたきだしている。

ジジイもまけないぞ。

ふたりで競い合おう。

『孫に曳かれて文壇デビュー』という家族小説をジジイはかきだしている。

孫がこんなにかわいいとは思わなかった。

孫がこんなに頼りになるとは思わなかった。

そういいや、むかしのひとはいいことをいったね。

ウンチの五合くらい口にはいらなければアカチャンは育てられない。

OOOのカミオシメなんてなかったもんね。

ポイステのカミオシメなんてなかったもん。

そのうち粗大ゴミのオイラもポイステの運命かな……。

いまのうち、ボケないうちに、うんと毒づくとするか……。

……ソンソン。

ソウダ、そうなのだ、あんたら五合升、木の升だぞ。

おそれおおくもかしこくも木製の五合升を見たことがありますかな。

むきになって、若ぶるのは、やめましょう。

ボケ始めなどと自嘲するのもやめましょう。

四字熟語も、死語だってもっと再生して、使いたい。

古色蒼然としたペダンチックな文体といわれたくな。

であるからして、遠慮して使わないのだ。

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