第四章 バーコードボケ?
4 バーコードボケ?
生活に張りがでたというか。
たとえ、動かすのは手先にすぎないとしても、体を動かすことが、野菜を刻むことに意識を集中するこ とが、あれほどたのしいとは知らなかった。
道具を使うことがあんなに……もう限界だ。オシッコをがまんするために、たあいもないことを思い起こそうと意識を集中しているのも限界だ。がまんできないよ。
限界だ。
もうだめだ。
ミチコサン、オシッコモレチャウヨ。
このへんにコウシュウトイレあったよな。
ミチコサン。
もうダメ。
モレチャウヨ。
タスケテ。
タスケテ。
道を誤った。
包丁一本、で、生計をたてることを、板前かコックになることも将来の職業の選択肢としておくべきであったぞよなもし。板前になるべきだった、ぞよなもし。ホウチョウイッポンサラシニマイテタビニデルノモイタバノシュギョウトくらあな。
いまからでも、おそくはない。
三桁まで生きるとしたら、人生これから、マダマダだぁ。
調理人になるべきだった、などとおそすぎる反省などするものではないのだ。
いまでは、ありがたいことに、雑念にとらわれると、それこそ……指をきざまないともかぎらないので、平常心で朝からすっきりとした時間を過ごせるようになった。
刃物をもったときの緊張感がなんともいえず朝の爽さにマッチする。
ただなんとなく、惰性で早起きしていたのに、いまでは習慣となり感性までかわってきた。
体を動かす。ということはありがたいものだ。
ワープロかパソコンのキーに触れているか。ペンをもっているか。チヨークをもっているか、たいした労働はしたことのなかった手にいまでは包丁をもっている。
包丁の重みがたのもしい。
包丁一本晒に巻いてとくらぁ、閉じ籠りの陋習からこうしてぬけだすことかできた。
気分はルンルン、脇差しを腰に差しているようなアグリッシブルな歩みで街を闊歩する。
腕におぼえあり。なにか悪事でも見たらゆるさない、なんて颯爽としたルンルンきぶんだぁ。
女房ってありがたいもんですな。
朝、あなたの微笑を見たいたいばかりに、朝餉の食卓にむかう。
奇妙に虚飾的な朝のDKには和風のおいしそうな匂いの細かい粒子が漂っている。
「味噌汁おいしいわ」
〈翁〉は……パパ起きな、などと同居人にいわれたことはない。
ともかく、むかしから早起きだった。
日本語には。
どうしても。
老人としての一人称で。
気にいって使えるものなどありゃしない。
いっそのこと。
老いも若きも男も女もアイ、〈I〉。
で、すませられれば。こんなにいいことはないのにな。
なにかいい人称代名詞があったらおしえてもらいたい。
ボクもワタシもわたくしもダメ。
ちょっとわかすぎる派手すぎる感じのひびきだ。
俺。
なんだか折れと語感がおなじだ。
それでなくとも中途挫折の因縁に。
とりつかれている身にとっては使いたくない。
結局〈翁〉におちつくのだ。
おいら(おいも)みたいで、ダメ。
おいどん(スイトン)みたいに聞ける。
だから駄目だ。
そういえば、そういわなくても、ヒラメイタ。
なぜスイトンがここでとびたしたかというと、美智子さんが戦時中スイトンがたべられないで悲しかった経験をよく話す。
その話しを聞くたびに違和感をおぼえる。
あれおかしいよな、永遠の美少女がどうして戦争体験があるの?
ヤッパ惚けの初期症状の現れ……ボケボケが脳血管から漏出、クモマク下出血……ではないのでしょうか。
バーコードボケなんていわせない、いやすでにいわれている。
バーコードをイメージしてなのか、行数稼ぎが目的なのかわからないが、一行空けの文章をよく書くので……お恥ずかしい。
ボケは脳血管だとかクモマク下出血とはかんけいない……ほかになにか……。
これはそうそうに、TWMUのK先生のところにかけこまなければ。バカ。あの先生は腎臓病の先生なの。だいいち、現在はI先生におせわになっているのですよ。そしてあの先生たちには、……前立腺肥大で診察してもらった先生だろうがな。
ヤッパすこしウロが回ってきたようで……。門外漢が医学のことなんか考えてもどうしょうもないのだ。
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