日輪狼
会談場所から駆けて
沼の水は濁って泡立ち、周辺の木々は焼け焦げて倒れたり燃え尽きたりと原形を留めているものが殆どない。下草が焼き払われ剥き出しになった地面に、物言わぬ骸となった
「これは……なんてこった」
「一体何者の手でこんな……」
『何とも、惨い有様ですな……』
真っ先に到着し、何とか焼け残った木の陰から様子を窺うトランクィロとヴィルジール、アルフォンソが、あまりの惨状に揃って息を呑む。
人間の姿では四人に追いつけなくなり、
変身も解かず、思わずその場にへたり込む僕の肩を、隣につくパトリスが優しく抱いた。
『使徒様……』
「酷い……こんな、うっ……」
涙を零す間もなく、胸の下からこみあげてくるものを感じ、僕は前脚で口元を覆った。
辺り一帯にたち込める、草と木と肉が焼ける臭い。血と土の臭い。文字通りの死臭。
これまでの人生で経験したことの無い、経験するわけもない、濃密な「
僕の肩から離れて飛んでいたアルノー先生が、ひらりと僕の前脚に止まって嘴を開いた。
『エリク、無理はすんな。少し後ろに下がって肺の空気を入れ替えろ』
「でも……」
『無理はすんなと言った。お前はまだ12だ。冒険者としての訓練を積んでいるとはいえ、こんな
そこまで言って、ついと顔をそむけるアルノー先生。その目は鋭いままに、眼前の惨状を映している。
僕はようやく溢れ出した涙で頬を濡らしながら、吐き気を催していたことも忘れてアルノー先生の姿を見ていた。
目の前の
僕は地面に身を伏せるようにしたまま、背中で陽光を浴びるアルノー先生を見上げながら、呻くように言った。
「じゃあなんで僕をここに……」
「今回の相手、お前ならもしや……と思ったから、な」
要領を得ないアルノー先生の言葉に、僕は首を傾げた。アルノー先生の太い腕が、ゆるく前方へと伸ばされる。
「だがいいかエリク、
戦闘は俺達に任せて、まずは見ているんだ」
指で指された
まばゆい白銀色に輝く、紋様の刻まれた毛皮。煌々と、その四肢と背で燃え盛る黄金色の炎。
その美しさすら感じさせる姿と、歯を剥き出しにして前方を睨みつけるその魔物は、伝説の中で語られることもある程に、強大な神獣だ。僕もよく知っている。
「
「まさか直接目にする機会が、生きているうちに来るとはな。
ヴィルジールが歯噛みしながらそう零した。
太陽を追い、炎を操る
目の前に姿を見せてこそいないが、伝承通りなら
後方で、土を踏む音がした。後ろを振り返ると、僕を見下ろす
このミオレーツ山に住まう、つい先刻までいがみ合っていた
『親父、戦闘部隊、斥候部隊、共に準備万端だ』
彼の傍らに立つ巨大な
トランクィロとヴィルジールは、二人揃って大きく頷いた。
『いいかお前ら、相手はあの伝説の
『この戦い、確実に死力を尽くしたものになる。遠慮はするな、遠慮したらその瞬間に命を落とすものと心得よ!』
『『おぉっ!!』』
二人の王の言葉に、二つの種族の戦士たちが揃って声を上げた。その声は
僕は戦士たちの最前列で声を張るイヴァノエを、不安そうに見つめる。
「イヴァノエ……」
『大丈夫だ、エリク。俺は死なねぇ……ここで死ぬわけにはいかねぇ。
俺はお前の
イヴァノエの瞳が僕を見て優し気にすぅと細められ、口元に笑みが浮かんだ。その笑顔がなんだか切ないもののように思えて、僕は思わず後ろ脚で立ち上がってイヴァノエの肩に縋った。
「死なないで……死なないでね……!」
『おう、心配すんな……おい、アリーチオ』
『はい』
僕の
『お前はエリクの傍についてろ。もし
『……了解っす。さ、エリクさん、そろそろ下がりましょ』
アリーチオとパトリスに伴われ、僕が集団の後ろの方に下がり始めた時、
『……煉獄へと向かう決意表明は出来たか? 野蛮な
その大きな口をぐわっと開いてベスティア語で大きく吼えながら、
対して、木陰から飛び出して
『ふん、己の側から御山に踏み入っておいて、伝説の神獣ともあろうものが随分と無礼を働いてくれる。土地を預かる者として捨て置けん』
『ま、この山が荒らされたら困るのは俺達なんでね。悪いがとっととお引き取り願おうか』
「学校としても、資産であるこの山が荒廃するのは避けたいところなんでな……いくぞ、トランクィロ、ヴィルジール」
アルノー先生が地面を蹴り、その肉体を
それに追随して二人の王がその手を振りかざすと共に。
総勢300匹を数えようかという
たった一体の
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