仲良し

 私は、何時ものようにゆうちゃんちへ来ていた。お菓子作りとささやかなパーティのためだ。ただ、今日はちょっと特別な日なのだ。

「みぃ、いらっしゃい。早速だけど、どう?」

「ゆうちゃんせっかちだね、いいよー」

 ということで、早速のプレゼント交換ということになった。私からは、ハンドルが螺鈿細工になっている折りたたみナイフを。ゆうちゃんからは、ハンドルに精緻な彫り物の一体型ナイフを。そして、プレゼントボックスから取り上げてみれば、裏側にはイニシャルの彫り込みがあった。”Y and M”。サプライズであり、とても嬉しいことだったのではあるが……

「嬉しい!私もそういう装飾入れて貰えば良かったかなぁ」

「いいの、この螺鈿細工も素敵だもの。私は満足よ」

 ではパーティの準備ということで、二人で台所に立ちお菓子作りとなった。私が次工程の用具を用意したりしている間に、ゆうちゃんがゼラチンを準備していた。ゼラチンをお湯で溶かし、砂糖を少々とバニラエッセンス。バニラエッセンス?

「ゆうちゃん、バニラエッセンスって大丈夫?いつも独自アレンジして失敗してるでしょ」

「大雑把な料理しかしないみぃには言われたくないなぁ」

 二人して大笑いした。

 そして次工程。ここが特別な工程だった。

 バットを準備し、お互いに先程のナイフを取り出す。右手にはナイフ。左手には―――何も持たなかった。二人して左腕にナイフを宛てがい、斜めに切り裂いていく。当然傷口からは血が流れ、バットを満たしていった。ゆうちゃんはいいナイフを用意してくれたみたいで、痛みはほとんど無かった。ただ左手の指先がしびれているような気がする。

 ふとゆうちゃんを見ると、血が肘へと伝い、バットの外へとこぼれてしまっている。自然と、ああ、もったいないな、という思いが湧き上がり、右手ですくい取り口に含んでいた。ただ嚥下しようとして喉に絡んでしまい、むせてしまう。それを見て笑ったゆうちゃんも、同じように私の血をすくい取り、口に含んで嚥下しようとしてむせていた。気がつけば、二人でむせながらクスクスと笑い合っていた。

 十分な量が準備できたら、お互いに左腕を縛り止血を行なった。そして、先程準備したゼラチン液をバットに移しざっくりと混ぜ、氷水で冷やし固める。あとはハート型に型抜きし、綺麗な器に盛ってミントを添えてできあがり!

 リビングのローテーブルに向かい合って座り、簡単な飾り付けを行ったあと、早速のお食事会となった。緊張しながらスプーンで切り取りすくい上げ、口に含む。おいしい!控えめな甘さと、まるで上質なワインのような香りがするようで、そして意識が白くなるような感覚があった。

 気がつけば、ゆうちゃんはまるで微睡むような表情になっていた。ゆうちゃん大丈夫?そう口にする間もなく、ゆっくりと横に傾ぎ倒れていく。無意識のうちに、感覚のない左手を伸ばしていた。その時、不意に意識が遠くなり―――器が落ちる音が聞こえ、気がつけばゆうちゃんと同じように横に倒れていた。

 眠るように目を閉じたゆうちゃんの頬を、感覚の残った右手でゆっくりと撫でる。その感触をしっかりと記憶し、自分も同じように眠るように、真っ暗闇の中に落ちていった。

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