第6話 情報収集
レイはいい加減脇腹の痛みが治まったのを確認して、テーブルの横の椅子に座った。対面にヨシュアも座った。レイはカイ司祭の事をヨシュアに尋ねた……本来これを聞きに、この家に来たのだ……
レイの父親ヤーンとカイ司祭は長く交流があり、父親が死んだ際も、カイ司祭がお祈りを捧げてくれた……
「カイ司祭は親父とはここに来る前から面識があったって言ってたよな……」レイは尋ねた。
「はぁ〜疲れた……王都の頃からの知り合いだって言ってたよ」ヨシュアは自分の肩を揉みながら答える。
「それは重畳……親父は俺が生まれる前に、大戦に参加していたと聞いた……カイ司祭はその頃の親父を知っているかもしれないな……お袋に尋ねても知らないって言うし」レイは話を続ける。
「俺は王都での剣匠としての親父の事をあまり知らないんだ……2年前に親父は死んでしまったし……これから剣匠として練習して行くにしても、親父の師匠や兄弟弟子の事を知っておいた方が良い、一人きりで仮想敵や基本練習して行くのも限界あるしな」
2年前の父親の存命時には二人で、乱取り稽古が出来ていたのだ……それも今はできないでいる……王都に行ったら、練習相手には困らない様にしたい、その為にも、親父の王都での知り合いを知りたいのだった。
「いつ、王都へ行くの??」ヨシュアが尋ねてきた。
「今年の冬で、18歳だから、春が来たら行こうと思う」
「私も、カイ司祭から来年からは王都のレスナール教会に修行に行く様に言われているの……」ヨシュアが、ちょっと嬉しそうに言い、上目遣いで、レイを見た……
「そうか……まぁ、王都でもよろしく頼むよ」
「もうちょい、嬉しそうに言えないの??」ヨシュアは拗ねた。
……ヤーンおじさんの様な女たらしから、こんな朴念仁が生まれたとは……ヨシュアは不思議に思い……椅子に座るレイを見た。
体格も、顔もヤーンによく似て来た。偉丈夫と言って良い……身体の厚みは、まだ薄いが、しなやかな筋肉が、身体を覆っているのが見て取れる……これで、女と見たら誰でも声を掛けていれば、ヤーン瓜二つだったが、山での生活が長いせいかレイにはそう言った社交性が良くも悪くも欠落している様に見受けられる……賑やかな王都でやっていけるのだろうか??ヨシュアは少し心配になった。
「今日はカイ司祭は教会に居るのか??」レイは尋ねた。
「午前中はご予定は無かったと思う……」
「そうか、もう良い時間だな、行くよ、話ありがとう……」
レイは話を切り上げると、立ち上がった。
「お昼食べたてかないの?」ヨシュアが聞いてきた。
「すまん、ありがとう、けど……オキ村長の所にも寄りたいんだ……今日は遠慮しとくよ」レイはすまなそうに言った。
「そう……わかった、王都に行く時は教えてね……」ヨシュアは微笑みながら言うと玄関まで出て、レイを送ってくれた……
「じゃあ、また……」レイはオキ村長宅に歩き始め……たと思ったら、振り返り言った。
「なぁ〜〜お前の魔法、効いてないぞ、掛けたの本当に回復魔法か??」
「!!ああっ、アレ、実は……鎮痛効果だけなの……」
「やっぱりな……詠唱回数多いなって思ったんだ……負荷の腕輪付けてるのに、回復魔法あんなに唱えられるのかと内心驚いてたんだ……」
……負荷の腕輪とは魔法詠唱時の消費精神力を意図的に増大する様に魔力付与された腕輪だ。
ヨシュアの付けている腕輪は詠唱一回分が、三回分に相当するする腕輪だった。
僧侶修行中は外す事は許されていなかった…彼女の年齢で、この強度の腕輪を付ける僧侶は少なかった。
僧侶のみならず魔法を使う者の多くは、平時はこの様な腕輪を付け、詠唱時の負荷を掛けて、精神力の鍛錬をしている事が多かった。
「まぁ、及第点だ……本番が来たらよろしく頼む。」
レイは今度は振り返らずに歩いて行った。
「あーあ、行っちゃった……」後ろからヨシュア母の声がした……
「アンタ、見てたの!」
「『王都に行くときは教えてね……』まぁ、及第点だわな……」ヨシュア母は口角を片方だけあげて、彼女の口真似をした……
「なによ!!いやらしい顔しないでよ」ヨシュアは母を睨みながら、家に戻った。
……ヨシュアは思っていた……及第点だと!……偉そうに!……だか、ヨシュアの心に引っかかったのは、『本番が来たら』……だった……私の魔法を使う本番が来る??……どう言った意味で彼は言ったのだろう。
ヨシュアは石窯から母親の作ったパンを取り出し、口に咥えながら、レイの言葉の意味を考えていた……
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