第5話 女の勘【物理的】

「なんで食ってる!!」と言うや否や、儀礼用のメイスがレイの胴体に吸い込まれた…レイは完全に油断していた……あろう事かそのメイスの行き先は朝、痛めた脇腹だった。

「グォグッ…グッ……」最早言葉では無い……だだ、うずくまり、レイは呻いている。

「私のチーズケーキがっ!」ヨシュアは空になった皿を見て怒鳴った。

 ヨシュア母が、メイスで殴られた勢いでレイが落としたチーズケーキの一欠片が床にあるのを見て、「まだ、ちょっとだけ残ってるよ……それ」と言った……嗚呼……そんな言葉は、火に油を注いだに過ぎなかった……

「……んなもん!いるかっ!!」ヨシュアはレイの胸ぐらを掴んで、空いた手でボディに一発!

 またもや拳は脇腹の痛めた場所に着地した……レイは悶絶し身体をくの字に曲げて荒い息しか出来なくなった。

 ヨシュアはレイを見下ろしながら「教会の仕事で貰ったお給料で、やっと買ったチーズケーキの最期の一切れだったのに!お前は!!たまにウチに来たと思ったら、何しやがる!!」


 ……ヨシュアは拳を握り締めたたまレイを見る……


 ……そして言いたい事を全て言ったのか、少し冷静になり始めた……


 ……何かおかしい……


 レイが、母がいる中で勝手にチーズケーキを食べる??少し考えたら分かる話だ……




「かぁちゃん!!お前か!!」ヨシュアは叫んだ。

「ごーめーーん」とヨシュア母はあっけらかんと言い、「知らなかったんだもん」とペロリと舌を出した。「そんなにチーズケーキ欲しかったの??」彼女はヨシュアに訊いた。


「私が欲しいんじゃないよ!礼拝の時に教会で引き取った孤児の子から食べたい!って言われたから、あげようと思ったんだ……教会じゃ、ケーキなんで出て来ないから……」

「かわいいんだ……その子、なかなか馴染んでくれなかったけど……やっとね……それで喋ったと思ったら、『ケーキ欲しいんだ』って……だから食べさせてあげたかった……」ヨシュアは一気に喋ると、レイの元に跪き、「本当にごめんなさい、私バカだ……勝手に思い込んで……」急にしおらしくなって、謝罪されたが……子供の頃から知っているヨシュアはいつもこんな感じだった……

 レイより2歳年上だったからいつもお姉さん風を吹かしていた。

 最近は大人になり、丁寧な口調になったが、元々はお転婆で、子供の頃は男の子みたいだった……

 今でも、怒ったりすると先程の様な喋りになってしまう……

 その後、ヨシュアは一生懸命にレイに回復魔法を掛けた……修業中の彼女では効果が薄く、結局その後、五回掛けてやっと、レイの痛みはある程度引き、立ち上がれる様になった。


 一息ついて、レイは思い出した。

 母親が父親に珍しく眉を釣り上げて怒っていた時があった。

「……女の子と見れば……」と母親は父親に苦言を言っていた。

 その後、父親は俺に「何故判ったのだろう、女は怖い」そう言った事を思い出した……


 まさに……その通りだ。


 どうして、俺が痛めた場所が判ったのだろう……知らない筈なのに……怖すぎた……彼女は僧侶より、もっと適した職業があるのでは……と思った。


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