第3話 マダムユナ
1時間程ソヤ山中を歩いて、ヤトミ村に着いた。
レイの母親は父親が死んでからはソヤ山中の古民家から出て、ヤトミ村の小さな一軒家に住んでいた。
「ただいま……」レイは玄関入って挨拶をした。
奥の居間に、椅子に座りながら編み物をしている母親がいた。
「おかえり、レイ」彼女は柔らかい声で答え、こっちを向いた。
父親が死んでから、かなりの期間落ち込んでいたが、最近はやっと笑顔が出る様になった。
「……レイ、お父様の2周忌がもう近々だから、お参りの準備一緒にしましょうね……」いつも通りの丁寧な口調だった。
お陰で、周りの村の人からはマダムユナと呼ばれている。
最初はその口調を少し小馬鹿にした渾名だったが、彼女の口調だけでなく、端々の所作や、相手への優しい心遣いから、今では、尊敬も込めて、村人皆がマダムユナと言う様になった。
「分かっているよ……」レイは答え、続いて言った。
「もう今年の冬で18歳になる、親父の遺言通り、王都へ行こうと思うんだ」
マダムユナは一瞬寂しそうな顔をして、それでも気丈に「そうね、お父様の遺言でしたね……」と言い、編み物に視線を落とした、それ以上何も言わなかった。
……しばらくして、マダムユナは「レイ、今日は御夕食、食べていく?」と急に明るく訪ねて来た。
「ありがとう、そうするよ……」レイはニコリと笑い即答した。
彼女は台所からヤギのミルクを出して、コップにタップリ注ぎ、レイに渡した。
レイは無言でコップを傾けた。
歩いて来て喉が渇いていた為、一瞬に飲み干してしまった。「もう少しゆっくり飲みなさいね……」と彼女言いながら、レイからコップを受け取った。「6時には戻るよ」レイはマダムユナに言い、外へ出て行った。
その後ろ姿を見て、マダムユナは『ヤーンに似て来た』と思った。
王都への訪問は仕方のないことだった。
覚悟はしていた。
剣匠である以上、いつかは……更にレイにはもう一つ別の理由で王都に向かう意味がある。
彼自身は知らないが……いつか、真相を知った時、彼はどう感じるのだろう。
それまでに彼の精神が成熟し、その困難を受け入れられる様に、彼女は神に祈った。
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