第2話 想定内

 脇腹の痛みを抱えたまま、室内へ戻り、父親の形見の木刀を握った。

 木刀の先端には小さな鉄板が巻き付けてられており、木刀の重量を増していた。

 片手で無造作に持ったまま外に出ると、そのまま素振りを始めた。

 振る度に脇腹が痛む……

 それでも素振りは止めない……

 今日はそういう状況下で、訓練をする日なのだから……


「その罰ゲームみたいな訓練を最後にすれば、いいじゃない」一度ヨシュアにそう言われた事がある。

「それじゃ訓練にならない」とレイは答えた。

「まともに素振りも出来ないのに……訓練?」ヨシュアは怪訝な顔をしながらも、それ以上の質問を止めた。

 その時は最悪な日で、鉄球は彼の側頭部にに激突した。

 それでも彼は脳震盪状態で木刀を振っていたのだ。

 いや振っていたつもりだった。

 実の所、ヨシュアから見たら、彼は木刀を杖に歩く夢遊病者にしか見えなかったらしい。


「あれはいい訓練だった」レイは思った。

 父親なら拍手喝采だろう。

 あれから2年が経つ、今は、虫の知らせというのか、当たる直前に少しだけ動ける様になった。


 そんな事を思いながら木刀を振っている自分に気がついた。

 駄目だ、気が散っていた。

 レイは木刀の切っ先を見ながら集中した。

 彼にだけ観える想像の人影が切っ先の少し先にいる。

 レイは片腕で木刀を上段に構えた。

 人影はユラユラと上半身を揺らしながら、じわじわと近づいてくると思いきや、予備動作もなくいきなり突進して来た。

 レイは人影が自分の切っ先の届く範囲に来るまで、ほんの一瞬待ってから、木刀を振り落とした。

 切っ先は地面に大きな音を立てて激突した。


「まただ……」と言った。

 レイの想像の人影は綺麗に脳天から真っ二つだったが、彼は気に入らなかった。

「違う……」父親の切り口を思い出す。

 理想には程遠い……


 彼は朝の練習を終え、簡単な朝食を済ませると、木刀をもったまま、母親の居るヤトミ村へ降りていった。

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