第2話 想定内

 脇腹の痛みを抱えたまま、室内へ戻り、父親の形見の木刀を握った……

 木刀の先端には小さな鉄板が巻き付けてられており、木刀の重量を増していた。

 片手で無造作に持ったまま外に出ると、そのまま素振りを始めた……

 振る度に脇腹が痛む……

 それでも素振りは止めない……

 今日はそういう状況下で、訓練をする日なのだから……


「その罰ゲームみたいな訓練を最後にすれば、いいじゃない……」一度ヨシュアにそう言われた事がある……

「それじゃ訓練にならない……」とレイは答えた……

「まともに素振りも出来ないのに……訓練?」ヨシュアは怪訝な顔をしながらも、それ以上の質問を止めた。

 その時は最悪な日で、鉄球は彼の側頭部にに激突した。

 それでも彼は脳震盪状態で木刀を振っていたのだ……

 いや振っていたつもりだった……

 実の所、ヨシュアから見たら、彼は木刀を杖に歩く夢遊病者にしか見えなかったらしい……


「あれはいい訓練だった……」レイは思った……

 父親なら拍手喝采だろう……

 あれから2年が経つ、今は、虫の知らせというのか、当たる直前に少しだけ動ける様になった。


 そんな事を思いながら木刀を振っている自分に気がついた……

 駄目だ、気が散っていた……

 レイは木刀の切っ先を見ながら集中した……

 彼にだけ観える想像の人影が切っ先の少し先にいる……

 レイは片腕で木刀を上段に構えた。

 人影はユラユラと上半身を揺らしながら、じわじわと近づいてくると思いきや……

 予備動作もなくいきなり突進して来た。

 レイは人影が自分の切っ先の届く範囲に来るまで、ほんの一瞬待ってから、木刀を振り落とした。

 切っ先は地面に大きな音を立てて激突した……


「まただ……」と言った……

 レイの想像の人影は綺麗に脳天から真っ二つだったが、彼は気に入らなかった…

「違う……」父親の切り口を思い出す……

 理想には程遠い……


 彼は朝の練習を終え、簡単な朝食を済ませると、木刀をもったまま、母親の居るヤトミ村へ降りていった……

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