前幕・3~異世界~
~???~
僕は改めて、周囲を見回してみた。
天井では棒状の灯りが煌々と点り、金属製とおぼしき管が何本も這わされている。
壁も天井も石のような素材だが、継ぎ目が無い。まるで一枚の薄板のようだ。
対して床は……四角い石材が規則正しく敷き詰められているが、どれも測って切り取ったかのように正確な真四角だ。
そして思った、いやに涼しい。確か今のシュマル王国は初夏だったはずだ。
「なんだここは……?」
僕の口から、思わずそんな声が漏れた。
異質だ。あまりにも異質だ。
「地下遺跡なのかしら……それにしては床材が新しすぎない?」
エティが座り込んだまま床を撫でると。
「そもそも、私達が通ってきた洞窟の道がどこにも見えないぞ」
立ち上がったシフェールが後方を振り返る。
確かに同じような明るく広い通路が、どこまでも続くばかりだ。
「魔力の匂いがちっともしない……なのになんでこんなに明るいんだ?」
パスティータは座って天井を見上げたまま唸った。
魔力。そうだ、確かにこの場所には魔力を感じられない。
僕は鞄から着火器具を取り出してみた。空気中の魔力と反応して火種を作る道具だ。
かちり。
かちり、かちり。
「……駄目だ、着火器具も使えない。魔力が一切無いと言うのか?」
と、僕らの言葉を黙って聞いていたアンバスが、ピクリと耳を震わせた。そして一言。
「おい、あっちから人の声がしねぇか? それもたくさんだ」
人の声がたくさん。こんなところで?
疑問符が頭に浮かぶ中、パスティータに目配せをする。こくりと頷いた彼女は立ち上がってアンバスが目線を向ける方向へ静かに駆けていった。
通路の角まで行き、その角から顔を覗かせるパスティータ。その瞬間。
「わっ……!!」
大きな声を上げ、途端に口を覆い隠してこちらに駆け戻ってきた。
「なによ、どうしたのよ!?」
声を潜めながらエティが詰め寄る。パスティータは視線を慌ただしく泳がせながら、こちらも声を潜めて言うことには。
「ヤバいって! たくさんなんてレベルじゃないくらい居るし、そもそも皆変な服着てる!
おまけに誰も彼も
「「なんだって!?」」
パスティータの言葉に一同揃って大声を上げた。そして一様に口を覆う。
ここは地下だ。声は否応なしに響く。しばらくその場で黙っていたが、
ふぅっと息を吐いた僕達は、パスティータがそうしたように表の通りをそっと覗きこんだ。
その通りだった。
道行く人、男も女も皆、
僕やエティのような
服装も、男は前で合わせるタイプの襟つき上衣がほとんど、女も丈の短い袖つきの貫頭衣など、明らかに僕達の知る服装様式ではない。
それに加えて道行く人の殆どが手に手に小型の
頭がどうにかなりそうだった。
叫び出したい気持ちをぐっと抑え、頭を引っ込める。
エティもパスティータも、不安げな眼差しで僕を見つめてくる。僕達より他の国を知っている、アンバスやシフェールでさえも困惑ぎみだ。
「どうなっているんだ……」
僕には力なくそう呟き、頭を振るのが精一杯だった。
~前幕・4へ~
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