前幕・2~転移~

~シュマル王国・農村ヴァリッサ近郊~

~ヴァリッサ洞窟・内部~



 僕達は走った。

 走った。

 走り続けた。


 洞窟内の道は空洞ほど広くはないから、巨獣が通れるとは思えない。

 頭上には魔力で灯した光源があるので明るさも問題ない。

 だが、万が一ということもある。

 それに、そんなことを思案する精神的余裕が、僕達には微塵もなかった。


「くそー、ターゲットの巨獣があんなに強いだなんて聞いてないぞ!」

「全くだ! 倒したら報酬は増額だな!」


 パスティータとアンバスがそれぞれ文句を述べた。無理もない。あの強敵には、僕だって文句の一つも言いたくなる。

 だが本当にそんな暇はないのだ。


「とにかく、早く洞窟を出て体勢を立て直すんだ! 文句はそれから……」


――ギャォォォォォン!!


 声を張り上げた途端、巨獣の雄叫びが洞窟内にこだました。しかもいやに近い。


「そんな、ここまで追ってこれるというの!?」


 エティの声が上ずっている。先程嫌というほど味わった恐怖が、僕達を一気に支配した。


「うわぁぁぁぁ逃げろぉぉぉぉ!!」


 先頭のパスティータが一目散にかけていった。完全にパニックだ。

 慌ててアンバスが、シフェールが、エティが後を追いかける。

 僕も急いで後を追いかけるが、果たしてパスティータの消えていったあの道は、外に繋がる道だっただろうか?


「えぇい、もう!」


 最早マップを確認する間も惜しい。

 とにかく僕達は道なりに走って。

 分かれ道に行き当たったら記憶を頼りに駆け抜けて。

 脇目も振らずに駆け続けた。


 そしてどれくらい走っただろうか、巨獣の咆哮がだんだん小さくなり、遂には聞こえなくなった頃。

 僕の頭上で灯る魔法の光源は、ぷつっと音を立てて消えてしまったのだ。


「わー、光源がー!!」

「何も見えねぇぞ!」

「マウロ、早くしてくれ!」


 仲間の声が暗闇の中で響く。真っ暗で灯りのない中、洞窟の中を走り回るのは無謀に過ぎる。

 僕は慌てて声を張り上げた。


「分かってる、分かってるから止まって――!」


 と、その瞬間。

 視界が光で満たされた。



 そして僕達は。

 先程まで居た洞窟の中とは似ても似つかない、灯りで満たされ、天井の高い、平坦な冷たい石畳の敷かれた空間にへたり込んでいたのだ。



~前幕・3へ~

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