第2章:『蘇る記憶と誓った約束』
第28話「先生が帰ってきた!」
「友花さん、戦争に参加してたことは……悪かった!舞友実の病気をどーしても治したくて!」
「そ、そうです。戒さんは、その為に戦争に参加したんです!」
偽界第1特別学校現校長の間河辺友花を前に、見事な土下座をかます優と戒。
そして隣に佇む彩乃。
「そんなこと言われても……人殺しに子供たちの世話をさせてたなんて、信じられないのよ!」
そんな3人を構うことなく罵声を飛ばす友花。友花はなんの躊躇もなく人を殺す戦争参加者をとことん嫌っていて、それを言わずに子供たちと戯れていた優と戒が許せなかった。
「あっ、その……こいつが舞友実を殺したってのは勘違いなんだ!こいつは、舞友実の為に血だらけになっても戦ってくれた!」
そう言って優の肩を組む戒だったが、友花は更に目を細める。
「だからって……戦争参加者なことに変わりないじゃない……そりゃ、戒には感謝してる。子供たちの面倒をなんの報酬もなく見てくれてたんだから……」
「……」
黙り込む優を押し退け、戒は友花の顔面に迫る。何故かその瞬間友花の頬が赤くなった。
「なっ!?」
「だからさ友花さん、俺たち、しばらく戦いはしない。ここで、もう一度先生をさせてほしい!」
「あっ、俺からも……」
「私からも……」
存在感皆無だったので、彩乃と優も主張する。
実際、本心なことに変わりはない。
それでも頷かない友花。それだけ、戦争が嫌いなんだろう。
「やぁ!!!」
その時、突然クリスが黒板の端から顔を覗かせた。相変わらず、巨大な胸は弛んでいる。
友花よりも驚いていたのは優と彩乃だった。
「わわわわクリスさん!?い、い、いつの間に!?ちょっと怖いんですけど!?」
「だっ、誰ですか!!」
「おぉ〜優くん!ちょっとたくましくなった?そんな可愛い彼女連れちゃって〜」
「か、彼女じゃないです!!」
頬を染めながら必死に否定する彩乃。ここまで必死だと流石に優も悲しくなる。
「ク、クリス!何の用よ!」
優に甘い顔を全開に向けるクリスに、友花は大声を上げる。
「まあ友花ちゃん?優君にここへ来させたのは私だし、今回は許してやってほしいな。まあ、友花ちゃん?昔のこともあるし〜?んんんん」
「ななななうるさい!!」
クリスを限界まで奥に押し込む友花。
「実際、優君いい子だよ〜?私が寝込んだ時もんんんん」
「わわわわうるさいうるさい!」
同じようにクリスを限界まで奥に押し込む優。
呆れた表情を浮かべる友花と、無駄にデカい胸の反応に困っている戒と彩乃。
「はぁ……もう分かったわよ。子供たちも喜ぶと思うし、勝手にしなさいよ」
「おお!友花さん!マジで!?」
嬉しそうにガッツポーズを決める戒。
そして両手で友花の手を握る。
「ありがとう友花さん!」
「ななななな、わ、わ、分かったわよ!」
急激に頬を赤らめる友花を、側で並んで見ていたクリスと優と彩乃は、彼女の想いを察したのだった。
子供たちが来るのを待つ間、戒たちは張り切ってせっせと色々準備していたのだが、優は1人丁度いいサイズの瓦礫に腰を下ろし、考え込んでいた。
そんな優の様子を伺って、彩乃が後ろから声を掛ける。
「今朝から様子がおかしかったですけど、何か、あったんですか?」
「あ、色季さん……いや……」
「……話してみてください」
「あれだけ一緒に戦って、時には傷を分かち合って、笑い合って……生きてきた人とも、戦争参加者である限りいつかは戦わなければいけない」
避けられぬ運命に、彩乃の目線が泳ぐのが分かった。
「俺が信じてきた正義は……やっぱり、偽りなのかな……」
瞑っていた目を開いた彩乃は、優に視線を合わせるように膝を折る。
そして、彩乃の整った顔立ちからは想像出来ない程破壊力のある変顔を作って見せた。
思わず優も吹き出しそうになる。
「プッ!……し、色季さんもそんな顔するんだ……」
「え、えへへ……は、恥ずかしいですねこれ」
優の顔に笑みが零れ、彩乃も笑う。
「みんなの願いが叶う結末にしたいって、優さん言ってたじゃないですか」
その言葉に、優はもう一度彩乃を見上げる。
「待ってますから、私」
彩乃に頷いた優。そんなことが本当に出来るかは分からない。でも今は、そう願うんだ。
「さ、もうすぐ子供たちが来るようですから、私たちも準備しましょう」
「……うん」
「あ、あの、桐原君」
と、そこで優の背中を友花の震える声が止める。
険悪な表情を浮かべてゆっくり振り返る優。あれ以来1対1で面と向かって話すのは初めてなので、自然と目線が逸れる。
「間河辺さん……あ、そ、その」
「此間は……その、悪かったわね。戒から聞いたわ。君も、辛かったのに」
優の強張った頬が緩む。
少し笑みが零れ、気持ちも軽くなった気がした。
「……大丈夫。ありがとう」
「そ、それだけ!早く準備してよね!」
頬を染めて指差した手を急速に上下させる友花。優と彩乃はそれを見て、微笑みながら目配せをした。
そしてその日も、子供たちは朝早くからやって来た。登校する子供たちを見渡してみると、皆、1ヶ月前のままだ。銀髪の少女も、友達ができたようか、楽しそうに話している。
その中の1人が、こちらに気付いた。
「あっ!!戒と優だ!!」
「ほんとだほんとだ!」
「あれっ!新しいおねーちゃんもいる!」
彩乃は皆に笑顔で手を振っていた。
一瞬にして囲まれた3人。
子供たちは大喜びの様子だった。
騒めき溢れるなか、友花は声を張る。
「今日からしばらく!また先生やってもらうから!!あと、そっちの子は彩乃ちゃんって言って〜」
「やったぁぁぁ!!」
「わぁああああい!」
一層子供たちが騒ぐ中、銀髪の少女は優を見て微笑んでくれた。
優もそれに、笑顔を返す。
しかしそこで、少年がこう言った。
「舞友実ねーちゃんは?」
彩乃と戒と優から笑顔が消えた。3人顔を見合わせて、目線を落とす。
気まずい空気を見計らって、本当のことを話そうと、優は口を開いた。
「舞友実は……し」
そこで戒が口を挟む。
「しばらく帰って来れないようなそのぉ……旅に出たんだ!また帰ってくるから、待っててくれよ」
戒は笑顔で少年の頭を撫でる。
そんな戒を見て、彩乃と優は僅かな笑顔を向けた。
静けさに包まれた場を見兼ねて、友花はパンパンと手を叩く。
「さーさー、やるなら早く授業してよね!!」
「お、おうそうだな!早く席付いて!えーっと今日は、英語か!さあ優!」
「ヴェッ!?英語!?!?えーっと、バニッシュメント・ディス・ワールドォォッ!!!」
「ゆ、優さん!?」
「俺もいるから忘れんなよー!!!」
と、黒板から飛び出るレイン。初めから待機していたようだ。
驚愕とする戒はレインを指差して言った。
「なっ!?なんでお前がいんだよ!!あっち行けあっち!!」
「だから筋肉バカが俺に指図するんじゃないよ〜、フッ……これもシュタインズ・ゲートの選択なのだよ……」
「誰が筋肉バカだ!!わけわかんねぇこと言ってるお前よりは頭いいっつってんだろ!?」
優や彩乃、子供たちに笑いが起きる。
友花も、微かに笑顔を浮かべていた。が。
「ってあんた誰よ!!」
と、目を見開いて戒と並んでレインを指差す。
「ああ俺はレイン、よろしく」
と子供たちに向けて笑顔で話すレインに、友花はレインと同じような笑顔を作る。
レインはこう見えて、顔もかなり整っているので、この一瞬で見惚れた女子生徒も少なくない。
「ああ俺はレイン、よろしく じゃないわよ!!どっから出てきてんのよ!気持ち悪いわ!」
「そうだぞ赤のレイン!気持ち悪いぞ!……あっ」
見事に意気投合して、見合わせた顔を赤く染める友花と戒。
笑い合う優たちを見つめて、満足気な顔を浮かべるクリス。
「あの優君が、ここまで生き生きするなんてねぇ」
と、そこへ現れた政綺。クリスと並んで、優たちを見つめていた。
「ファッ!?ま、政綺君!?いきなりすぎるだろ!ちょ、怖いんですけど……」
「10年前は死んだみたいだったのに。いい友達を持ったね〜」
笑顔で言う政綺に、クリスも笑みを返す。
「ま、これも切夜と私のおかげかな!」
「いやいや!僕のおかげでしょ!」
「いやいや私だって!このこの!」
こっちもこっちでじゃれあう2人。
偽界第1特別学校には、かつてない程の笑顔で溢れていた。
その頃。
アブソルートキル本拠地にて。
丸いホール状の建物の中、次々と集まるアブソルートキル構成員たち。中には一馬や、龍もいた。
ミサクや、両足を義足で補うカリアも。
メンバー全員が揃ったのをを見計らって、首領は話し出す。
「今回君たちに集まってもらったのは他でもない。一馬と龍君に参加者を殺して回ってもらっていてもキリがないからね。本格的にやろう」
「これより、第4次偽界戦争参加者殲滅を開始する。誰でもいい。目の前に映る人間を片っ端から殺したまえ」
遂に、アブソルートキルが、動き出す。
ーENDー
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