第18話「再会と拒絶」
満月が真っ赤に染まった世界を照らす。
少年は、動かない身体を何度も何度も捻りながら、やけどまみれの手を伸ばす。
あまりの熱さに、全身の力が抜けていくのが分かる。それでも何かを掴もうと必死に手を伸ばす。
赤くこべりついた血を遮って、少年は枯れ果てた声を発す。
身を賭して、それを助ける為に。
ブグォォォンッッ!!
重い落下音と、爆発音と共に、それは途絶えた。
「ああああああああああああっ!」
ドサッ……
夢から覚めた優は、勢いよくベッドから転げ落ちた。
窓を見ると光。朝である。
その逆を見ると……
「ゆ、優さん!?どうしたんですか」
「ん、いや……」
ベッドから転げ落ちた優に彩乃がくすくすと笑う。
だが、そんな彩乃に目が行かない程、優はさっきの夢が気がかりだった。
「優さん、なんでここ、ですか?」
あれから数時間経った後、優と彩乃は家を出て、現在セーフティータウンの門を潜っていた。
「謝らなきゃいけない人がいてさ、コネクトアイズとの戦いの前に、ケジメを付けておきたいんだ」
「前、言ってた人、ですね……分かりました!私も付いていきますね!」
「もう大分前から付いて来てるけどね」
優は、対コネクトアイズを迎える前に、もう一度友花や子供たち、そして、戒に詫びようとセーフティータウンに来ていた。
突然姿を消してしまったことを友花に、子供たちに、舞友実を死なせてしまった上に逃げてしまったことを戒に、だ。
「あ、あのさ色季さん、ここまで来てもらって悪いんだけど……できれば、1人でその人達に会いたい」
そう優が言うと、彩乃は一瞬考える素振りをしてうんと頷いた。
「じゃあ私、この辺りのお店回って来ますね!」
「ごめんな……ここで待っててくれ」
優は彩乃に微笑む。
「じゃあ、ちょっとだけ買い物してきてもいいですか?」
そう言い、優の笑顔を確認すると、彩乃は走っていった。
彩乃の背中を見届け、再び歩き出そうとした、その時。
「貴方……」
小さく、それでも力強い女性の声が優の耳を通った。聞き覚えのある声に、真っ先に声のした方へ向き直る優。
「あっ……」
優の目に映ったそれは、優の全身を震え上がらせた。
そこには、真っ赤な長い髪、鋭くて、それでも暖かい瞳。
間河辺友花がいた。両手には、食料と衣服を詰め込んだ袋。恐らく、子供たちのものだろう。
友花は優と確信した途端、両手の袋を放り投げ、手を優の胸ぐらへと掴ませた。
その頃、彩乃は、とあるパン屋に立ち寄っていた。楽しそうにパンを選んでいる。
「これと、これと……ふふっ、優さん、ドーナツ好きだったからなぁ……元気出してくれるかな」
「ありがとうございましたー!」
店を出た彩乃は、ドーナツを入れた袋片手に大きく深呼吸した後、先程の場所へと歩みを進める。
「ぐっ……ゆ、友花さん」
「ちょっとあんた。突然姿消して、今までどこにいたのよ。子供たち、ずっと寂しそうにしてたんだよ?分かってる!?そうだ。戒は、戒はどうしたの!!」
友花は、優への怒りを露わにした。それもそうだ。優は、金だけ手に入れたら最後。子供たちや、友花を見捨てて逃げ出したのだから。
「俺が……舞友実を……殺してしまって……ここにはいられないって、思ったんだ。だから……」
「殺した……?本気で言ってるの……?」
「ち、ちが……」
「答えなさいよ!!……って……刀?」
言葉を詰まらせる優に更に迫る友花だったが、優の腰の刀を確認し、表情が固まる。
「戦争、参加者だったの……」
冷たい空気が流れる……
ショックの所為か、胸ぐらを掴む腕の力が緩んでいく。そうだ。友花は、戦争参加者を嫌っているのだ。自らの欲望の為に人を簡単に殺す戦争参加者が。
優は噤んだ唇を震えながら動かす。
「ごめん……」
と。
友花は顔を上げ優を見る。鋭く、冷たい目で。
「まさか……戒も……」
優はゆっくり、コクッと頷く。すると、友花は目に涙を溜め、袋を拾い上げ走り去って行ってしまった。
「ま、間河辺さん!!」
手を伸ばす優。だが、その手で友花を掴むことはできなかった。実際、優は友花を騙していたのだから。ただの冴えない少年を装っていたのだから。
かける言葉を失ってしまい、その場で硬直してしまう。
ドサッ……
「!?」
落下音が聴こえた。優がそこに目を向けると、そこには彩乃がいた。
予想外のタイミングで彩乃が現れた為、優の頬には僅かに汗が垂れる。
そんな優を、絶望に染まった冷え切った顔で、目で、彩乃は見る。
「ゆ、優さんが……前言ってた、大切な人を……優さんが殺したんですか……」
「あっ、えっ……違う……俺は……ちがっ」
優が彩乃に手を伸ばすと、彩乃は一歩足を引く。
目には僅かに涙が溜まっているように見えた。
「すみません……」
彩乃は、優に背を向け、遠ざかるように路地を走って行った。
彩乃は、優自身が手を下したと解釈してしまったのだろうか。
それは違う。
でも……違わない。
これで、いいんだ。
「そうだな……俺は……1人だよな……1人の方がいい……俺と関わると……みんな不幸になる」
優は、彩乃に惨めな後ろ姿を晒して歩き出す。
冷たい水滴が鼻に落ちる。
タイミングを伺っていたかのように降り注ぐ大粒の雨。
「ああ、あの夢の女の子も、きっと俺に会った所為で……」
優の頬には、涙が伝っていた。
ーENDー
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