第19話「仲間」

ある雨が降る夜。


戒は激しく突き立てる雨を切り裂き、拳を振るっていた。

「っ!……っ!!」


戒は優への憎しみに燃え、第4次偽界戦争が始まってからの1ヶ月間、決して止むことなく、優を探し続けている。優に勝てるだけの力を身に付けながら。

舞友実を殺した真の犯人を知る由もなく……





優と彩乃が別れてから、対コネクトアイズ本作戦会議が行われる程の時間が経った。

そして今、それは行われている。


作戦はこうだ。

コネクトアイズは常に集まって行動しているわけではない。7人それぞれが活動領域を持ち、その中で戦争参加者と戦闘する。その為、メンバー全員が揃うことは滅多にない。


それを利用する。

今回集まった152人の対コネクトアイズのメンバーを戦力が上手く均等になるよう7手に分け、それぞれで1人に攻撃を仕掛ける。


そして、戦争参加者が一度にこれだけ集まるのは第4次が初めてだという。

やはりコネクトアイズとは、1ヶ月間続いていた参加者たちの敵対関係を一時的とはいえ断ち切る程、懸念すべき存在なのだろう。



優を含む残り20人が戦うのはここから東に位置する住宅地を拠点としているであろう、「大剣使い」。

コネクトアイズの中でも戦闘能力はずば抜けていて、かつて幾度もの戦争参加者を仕留めてきた剣士である。


だが、不意打ち。更に21人であるならば、いくら歴戦の強者とでも太刀打ちはできない。

対コネクトアイズの勝利はほぼ確定していた。




と。

対大剣使いチームの隊長となった、ケンジャキ・カルマは勝ち誇った笑みで本作戦のリーダー、レインから伝えられたことをありのまま演説している。

それに便乗し騒ぐ他の参加者たちを横目に、優は頬杖をついている。



「……こんな単純な作戦で、そんなに上手くいくもんなのかな……」


「俺もそう思うよ」


優の隣から声がした。そちらを振り返ると、背の高い茶髪の男が座っていた。

この男も優たちと同じチームなのだろう。

優は男に頷く。


「あ、ああ」


「そもそもこんな大きな作戦が、コネクトアイズにバレていないか分からないしね。あのレインって奴が上手くやってるみたいだけど……不安だ」


「そうだな」


「あっ、俺、相原っていうんだ。仲間だな!よろしく!こう見えて、向こうじゃ刑事やってたんだぜ? 君は?」


「仲、間……俺は、桐原優。よろしく」


そう言って、2人は握手を交わす。


戒や舞友実と初めて会った時より、上手く人と話せている気がする。これも、2人や、学校のみんなのお陰なのかな……

と、優は強く握り締められた手と手に視線を落としふと思う。そして、結局、あのまま戒たちに会わずにここへ来てしまったことに後悔を覚える。


「にしてもっ、ほんと脳天気な奴らだよなぁ」


手を頭の後ろへ左右に組み笑顔を浮かべる相原。



「そうだな」


そんなことを呟きながら、優が机にある珈琲が注がれたカップに手を伸ばそうとした瞬間、向かい合って座っていた女性と目が合った。



「「あっ」」


彩乃だった。

彩乃も優と同じチームのようだ。


「わわわわわ!」


彩乃は優と目が合った途端、手を左右上下にバタバタさせ自分の顔を隠そうとする。

焦りに焦った顔が公に見えているのだが。


「え、何?何?こ、恋人さん?!」

相原が2人の顔を交互に見ながら笑顔で言う。


「なっ!ち、違う!」




やがて落ち着ついた彩乃は、視点を落とし畏まりながら口を開いた。


「こないだはその……すいませんでした。突然逃げたりして」



参加者の大声が建物の支柱を潜り抜け響き渡る中、2人の空間は天と地のように静けさに満ちていた。

彩乃の言葉に、咄嗟に優は言う。


「あ……いや……だ、大丈夫」



優のその言葉に安心したように、彩乃は笑みを浮かべる。


「違います、よね。優さんがそんな簡単に人を殺すわけないですよね……それに戦争に参加してる限り人を殺してしまうのは仕方のないこと……ですよね……」


「……あのさ」




優は彩乃のまだ知らない、これまでの経緯を全て話した。






「そうだったん……」

「ああああああ!!」


彩乃の言葉を遮って、相原のうるさい喚き声が響く。相原を見ると、大粒の涙を流す両目を塞いでいた。


「な、何」


呆れた声で言う優の両肩を掴み、相原は力強く言った。


「そんなことがあったんだね!辛かったね!俺にできることあれば何でも言ってくれよ!」

「え、あ、あ、うん、ありが……」


「あああああああああああああ!!!」



「め、めんどくさい奴だな……でも……ありがとう」

と、優は小声で呟く。目の前にいる相原に聴こえない程小さく。



「ごめんなさい!」



と、その瞬間。彩乃の声が優の頭に響く。

その声は、優や相原はもちろん、あれほど騒いでいたチームの参加者や、近くで会議していた別のチームの参加者ですらこちらを振り向かせた。


「あ……色季さん……?」



「そんな辛いことがあったのに、私、あんなこと……私、優さんのこと何も分かってなかった……ごめんなさい……」


「色季さん……」


涙を両手で拭き、今までで最高の笑顔を優に向ける彩乃。


「私が……優さんを守りますから!」



優は嬉しかった。心の底から嬉しくなった。

こんな自分をこんなにも想ってくれる仲間がいることが、嬉しかった。

それと同時に、戒や、友花さん、学校のみんなにももう一度会おうと、強く決心した。

そして、満面の笑みで彩乃へと言った。


「ありがとう」




明日、遂にコネクトアイズとの決戦が始まる。

しかし、優たちはまだ知らなかった。

彼らが動いていることに……


ーENDー

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