僕の証言 M君の場合




 空木うつろぎさん? わ、忘れるはず、ないじゃないですか!?

 あの人のせいで、僕は、僕達は……! ああ、いえ、すいません。取り乱しました。


 ……そうですね。絶対が忘れるはずがありません。というか、僕のクラスメイトではたして彼を忘れてしまった人なんているんでしょうかね? 普段から、いろいろな人の手助けをしていたと思います。

 おそらく、純粋に人を助けることに喜びを見いだすタイプなんだと思います。正直、そんな人がこの世の中にいたんだ! という感じでしたけどね、最初見たときは。


 ただ、いくら善の気持ちからでた行動であっても、結果的にはかなり酷い結末になることが多かったように思います。

あ、いえ。その、彼が誰からも非難されていたというわけではないんです。その、なんて言うか。人によって評価が分かれちゃうんです。

 ある人は、彼をヒーローだと言いますが、ある人は、悪魔だと言うんです。

 え、僕ですか? ……明言はしません。察してください。

 どうしてそうなるのかですか……? それは多分、彼が自己中心的だからだと思うんです。目先の人を優先して、見えていない人は放っておくような。つまり、やり方が極端過ぎるんです。

 助けるべき人は確かに助けます。でも、その分のしわ寄せは全て周りの人に行くんです。彼と関わりのある人ならまだしも、それ以外の人へもそれは伝播でんぱします。まったく、酷いものですよ。


 でも、そうですね。一度だけ、一度だけですが、彼の人助けのしわ寄せが彼に向いた時があるんです。ええ、そうです。あの時です。

 おそらく、彼がああなった要因であるあの事件です。

 事件とは言っても、あれはもう単なるイジメだと思いますけどね。まあ、早い話が、虐められていた子を助けたら、矛先が自分に向いちゃったという感じですね。

 何でも、日が暮れた頃にクラスの上位カーストの女子達が、下位の女子をってたかって虐めていたらしいんですよ。で、そこに彼が乱入したらしいんです。正直、この時ばかりは彼のことを尊敬しましたね。まあ、助けたら こっちにまで火種が飛びそうだったので、傍観に徹しましたが。

 ……最低だという自覚はありますが、でも、仕方ないでしょう? 僕は彼ではないし、自分のことで精一杯だったんですから。

 とはいえ、その結果彼はあんなことを僕達に言ったわけです。耐えられなかったのでしょう。不満がいっぱいあったのでしょう。でも、酷いものでしょう? あんなの、もう、トラウマものですよ。一生涯、忘れることはできないと思いますよ。


                    高校一年生 M君への取材より一部抜粋

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る