第4話

 少女と話し始めて二ヶ月程経った。もう春は目前で俺は中学二年生になろうとしていた。

 そんなある日、ふと少女のランドセルが目に入った。

「そういえば少女さんは何年生なんだ?」

いつもの『少女さん』という呼び方も慣れてきた。名前で呼ぶほうが恥ずかしく思うくらい。名前、知らないけど。

「四月で五年生。お兄さんは?」

「俺は中学二年になるよ。」

 五年生、つまり今までは四年生だったのか。それにしては大人びた雰囲気―少し小学生らしくない雰囲気を感じる。

「私のお兄ちゃんより年下なのね。でも、お兄さんの方が落ち着いてる。」

「兄ちゃんがいるのか。」

 初耳だった。今まで一度も兄の話題は出てこなかったからだ。こいつのことだからきっと、言う必要性を感じなかった、とか言うんだろうな。俺だって自分から話そうと思わないだろう。

「うん、でもあまり話さないの。」

「歳も少し離れてるしな。」

 歳が離れてると時間も合うことが少ないので同じ家に住んでいても中々会わない。俺もそうだった。姉と殆ど話していないし興味もない。

「一度で良いからお兄ちゃんとたくさんお話してみたいわ。」

「兄ちゃんってここの中学?」

「ううん、受験したから違うはず。」

 お坊ちゃんってか。となると少女も女子校かどこかに行くのだろう。

「あ、もうすぐお兄ちゃんが帰ってくる。家に帰らないと。またね。」

「おう、またな。」


 しかし、次の日もその次の日も少女は来なかった。あの時交わした言葉を最後に少女と話した二ヶ月間はその日、幕を閉じたのだった。

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愛されないあの娘と愛せない自分。 木田汐 @noiR057

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