第13話 現実

 タニシから送られてきた住所を経路案内のアプリに入力し、笹塚は飛び出した。

 むき出しの非常階段を見つけて駆け下り、病院を脱出してみれば、空には、まあるい月。VRの中で見たよりもずっとリアルだと、そんな馬鹿なことを思った。

 なんとか病院の敷地内から抜け出て、全速力で走り始めると、数分もしないうちに呼吸が乱れ始める。

 体が重い。息が上がる。心臓が早鐘を打ち、吐きそうになる。

 当然だ。一度酷使した肉体にまた無理を強いている。最後に全力で走ったのがいつかなんて、覚えていない。

 悲鳴を上げる肺と足、しかし、気分は高揚し、他人の肉体を操縦しているかのような不思議な感覚。

 VRに没頭したときのようだと、笹塚はくすりと笑みを零し、スマホの案内に従って街路を曲がった。

 目的地まであと二分ほど、景色は住宅街に代わり、街路灯が笹塚を見送っていく。

「ちょっと、そこの君」

「……⁉」

 不吉な声が笹塚の足を止めた。

 通り過ぎた、背後の脇道。そこから姿をあらわす、官服の二人組。

 鋭い目線と柔和な笑顔を張り付けた警官が笹塚を手招きする。

 VRクロス、終了まで、あと、十数分。

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