第3話 ベタ

ベタだ。ベタすぎる……

さや子は、体育館の天井に交差する鉄の骨組みに挟まったバレーボールを見上げながら思い出していた。



遅刻はほぼ確実だったが、急げば教室から体育館に移動するどさくさには紛れられるかもしれない。そう思って、もうすぐ学校にたどり着くという手前の曲がり角にラストスパートで駆け込んだ時。

私はあの人にぶつかって跳ね飛ばされた。


「大丈夫?」

あの人はそういって手を差し伸べてくれた。最初、あの人の顔を見るまでは正直ふざけんな、ちゃんと前見ろボケ!と心の中でディスっていたのだが、あの人の顔を見た瞬間に吹っ飛んだ。


この展開……


ベタだと思う……


私は動揺した。

まぁ、ここから都合よく恋が始まるとも本気では思っていませんよ。でもね。ベタだけど、フツーないじゃない? こんな事。それって不思議でしょ? ベタなのにフツーにないって。それってむしろキセキじゃないの? だって、世の中の男女の出会い方なんてだいたい限られてるんじゃないの? そうでしょ? まぁ、私そんなに生きてないんで分かりませんけどね……。 だったら、世間一般の方々の方がよっぽどベタですよ。私はむしろ特別な出会いをしてしまったんだ。

きっと……。


「あれ? 靴下……」

「え?」

そう。すっかり忘れていた事を思い出しました。


私は慌てて左足のワンポイントを左手で隠し、右足の太いリブを右手で覆った。

その時、ふと、地面に転がっているスマホが目に入った。

私のではなかった。

そのスマホは画面がヒビだらけになってしまっていて、私はそのヒビでできた模様を気持ち悪いと思ってしまった。


「あー、す、すみません」

あの人は、勢いよく一歩後ろに下がって私から離れた。

私の前から差し伸べられていたあの人の手が消えたので思わず顔を上げた。

「え?」

「あ、いや、気持ち…悪い…って……」

「えっ? あっ、え?」

しまった。声に出ていたらしい。

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