第12話 後日談

あおいさんの病気は、今現在の医療をもってしても分からない。どうして溶けるのか、それがどうして死に至ってしまうのか、なり始めから終りまで、本当に分からなかった。風邪とも他の難病とも、障害とも違う何か。

あおいさんは悪魔の呪いと言っていたが、はたして。

僕は、どう考えてもどうにもならないことを考えることをあきらめた。

こうして僕は―僕らは、彼女の病気を究明するために、それぞれの道を歩んだのだ。香音先輩はあの大学へ首席で卒業し、今では医者をしているらしい。


気づけば、年を越していた。

あおいさんのお母さんお手製のおせちは、大変に美味であり、お持ち帰りをしたくなったが、その気持ちが沸き上がったタイミングで、食べ終わってしまった。

結局年越しまで起きると意気込んでいたお父さんは、お酒によってつぶれてしまい、お母さんは、その世話をするということで、あおいさんの墓へと向かったのは僕と、昨日里帰りを果たした香音先輩の二人だけだった。

「それにしても、雄一君が製薬会社に勤めているとはね」

「先輩こそ、いやさすがというべきですか。内科医でしたっけ?」

長かった髪はきれいに切られていて、艶美な輝きを見せていた。

「まあね。おかげで、休日返上ですよ」

腰に当てた手に、結婚指輪はついていなかった。

「そうなんですか」

「つくづく教えられますよ。人は他人を助けられないってことを」

「でも、香音先輩は、お医者さんですよね?」

「あーちゃんみたいに、助かろうとしていなかったら、助けられないってことですよ」

とても厳しく、されど優しく。香音先輩は、大きくため息を吐いた。


「そういえば、何していたのですか?あーちゃんの家で」

「ああ、少し述懐を」

「なるほど。十回忌ですもんね。今年」

「十回の述懐をお父さんたちとしていました」

「それまた、楽しそうなことを」

香音先輩のクスッと笑う横顔に、零れかけた涙が引っ込み、その分だけ、笑みがこぼれた。


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僕と君の述懐記 三河安城 @kossie

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