第10話 九死に一生を得る
12月に入ってすぐ、弥倉あおいは入院することになった。入院先は、最新技術でできている西櫻薬科大学の大学病院だ。
薬科大学としては珍しくはあるが、一昨年から作られた医学部に伴って作られたという。
「のんちゃんが目指している学校だからね、めっちゃ楽しみだよ」
「頑張ってくださいよ、あおいさん」
「そりゃもちろんよ!センター試験には間に合わせる!」
「その調子ですよ!」
「じゃあ、私達は帰るね」
「うん、のんちゃん雄ちゃんありがとね」
「また見舞いに来ますからね」
「うん!」
その後、彼女には何度か峠が来た。
生きるか死ぬかの峠を、彼女は見事に切り抜けた。
九死に一生を得るという言葉があるが、彼女は本当にしぶとく生き残った。
そして、その峠が終わるとすぐに笑い話に変えていく。
本当に彼女は楽しいことが好きで、楽しませることが好きで、こんな人が病魔と闘っていると知ったら、世界でどれだけの人が悲しむのだろうかという疑問がうかんでしまう。
本当にセンター試験には復活しそうで、凄いと素直に感心してしまう。
そんな大晦日だった。
「大丈ブイ!」
「懐かしいです、そのノリ」
「え、そうなの?」
「あーちゃん、また勝手に外に出たんですって?」
「……ははっ、ごめんごめん。つい外が気持ちよさそうで」
「もう、ちゃんということ聞いてもらわないと」
「すみません」
「滅ですからね」
「待って、なんかかわいい風に言ってくれたけれどのんちゃん、つをしっかりと発音されてしまうと背筋が凍るよ?」
「ああ、すみません。って、もうこんな時間。また怒られちゃう、雄一君じゃあ先帰るね」
「え、ああ、はい」
「じゃあね、あーちゃん」
「うん、じゃあね」
この会話が、田倉香音にとって、弥倉あおいとの最後の会話となってしまった。
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