第13話

 そう、真っ直ぐ伸びる柱廊の先から、数人がこちらへ駆けて来ている。姿形から探索者の一団だろうか? 何事かとヘンテリックスとリーリアが、ロドリックの肩越しに覗き込もうとしたとき「くそ、やられた……」と、ロドリックからため息交じりの声が漏れた。


 どういうことだ? ロドリックからの答えを待つ間に、嘲笑を浮かべた探索者らが通り過ぎ、その奥に十数体は居るであろう魔獣の群れを認めたとき、ヘンテリックスは全てを悟った。

 そうか、わざと魔獣をおびき寄せ、こちらに擦り付けたのか――。


 いつかはやられるのではないかと思っていたことではあったが、こうもあからさまにやってくるとは思わなかった。それは、ヘンテリックスたちより僅かに迷宮内の理に長けた、ロドリックも同じだろう。


「ヘンテリックスは俺の補助を、リーリアは範囲攻撃魔術の準備を頼む、用意出来たら合図くれ」


 ロドリックは剣を抜きながら、簡単な指揮を執って前へ躍り出た。

 先ほどの探索者らと一緒に、逃げるという選択肢もあったように思う。だがロドリックはそれを選ばなかった。ヘンテリックスやリーリアを気遣ってのことだろうか、それとも他にもっと複雑な理由でもあるのか、どちらにせよ、その理由はリーリアに伝えておくべきだった。


夜行障壁パリウム


 ロドリックの指示に反して、リーリアが使った魔術は攻撃魔術ではなく、障壁魔術だった。それもたちの悪いことに、リーリアの使う障壁魔術は、呪歌から派生した準固有魔術の一つだ。通常の魔術からすれば、想像もつかないような効果を発揮する場合もある。


「リーリア! どういうことだ!」


 ガルムと呼ばれる犬型の魔獣の群れのほとんどは、障壁に囲われたヘンテリックスら三人を、無視するように通り過ぎて行く。ちょうど障壁に当たる位置を走っていた数匹のガルムだけが、頭をぶつけて、か細い声で鳴いた。


「ちょっと、声出さないで」


 リーリアが消え入るような声で言った。


「何をしたんだ? ガルムからおれたちが見えてないのか?」


「あーもう、気づかれちゃったじゃん」


 頭をぶつけたガルムが三匹、ロドリックに気づいて吠えたてる。


「この障壁、視覚認識をちょっと弄れるの、でも音や臭いは無理だから、声出したらばれちゃうのよ」


「そういうことは先に言ってくれ」


 ロドリックは左手でいくつか印を組むと、剣を構えなおし、周囲でうなっているガルムを障壁越しに切り裂いて回った。


「は? 今何やったの? まさか、私の障壁、その剣で斬った?」


「また今度教えてやる、それより、問題は通り過ぎたガルムだ。たぶん、逃げた探索者たちを追って行ったはずだ」


「何が問題なの? 元々さっきの奴らが連れてきたんでしょ? 私たち関係ないじゃん」


 リーリアは穴だらけになった障壁を解除しながら言った。


「後々のことを考えると、助けてやったほうがいい」


「この間もそれで助けようとして、裁判沙汰になったんじゃん!」


「それは君がやりすぎたせいだろ」


「仕方ないじゃん! 私、弱い魔術なんか使えないし」


 リーリアは頬を膨らませると、もういい、私は絶対助けないから! と頬を膨らませた。


「ヘンテリックス、君は行くだろう?」


 ロドリックに誘われて、ヘンテリックスは仕方なしに頷いた。逆恨みされて、こんな妨害工作を続けられても面倒だ。


 さすがにリーリアを一人ここに置いていくわけにもいかないため、向かうのは三人一緒にということになった。もちろんリーリアは走っている途中も、自分は手伝わない旨を主張し続けていた。

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