第21話
ゆっくりそこへ近づくと、綺麗な花が飾ってあった。
「あの…なんの神様なんですか?」
と、勇太は校長に聞いた。
「詳しくはわからないんだが、数十年前にこの町に起こった洪水でね、この学校の生徒が全員無事だったから
"子守りの神様"って呼び親しまれたと聞いたことがあるね」
「子守りの神様…」
確かに、そうかもしれない。と、勇太はその祠に微笑みかけた。
夢か現実かもわからない、信じ難い出会いだったが、こうしてその神が親しまれていることに少し安心したような気分になった。
「あっ」
そう言えば、と勇太は思い出したようにズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「やっぱり…」
勇太はズボンから取り出したそれを、祠の前に置いた。
「それは?」
校長先生が勇太に聞いた。
「あれは、ちょっと贈り物です」
「男の子なのに、随分と可愛らしいハンカチをもっているんだね」
「あはは」と勇太は笑うと、祠を見て言った。
「貰ったものなんですけど
やっぱりこれは俺の柄じゃないから
似合ってる奴がもってなきゃって」
そう言った勇太に、校長は笑った。
「この神様は女の子なのかい?」
そう聞かれて、勇太は慌てた様子で、
「あっ、えっと…たぶん」
と苦笑混じりに言った。
その瞬間、ふんわりと風が舞い、祠に置いたハンカチだけが勇太の足元に飛んできた。
勇太の髪がふわりと風に揺らぐ。
「これは…」
校長は驚いた様子で、そのハンカチを見つめる。
ぼうっと動かない勇太は、風が止んだ時、「ふはっ」と笑う。
そして自分の足元にあるハンカチを持つと言った。
「やっぱこれ、俺が持っておきます」
そう言うと元あった自分のポケットの中にしまった。
校長先生は何も聞かずに、「そう」と言うと、
「君は、不思議な子だね」
と言った。
勇太は「そうですか」と言うと、
「俺はただの根性無しですよ」
と、勇太は木の葉の間から見える空を見上げて言った。
校長は頭上にはてなマークを浮かべているかのように、首を傾げた。
「じゃ、俺もう帰ります。またここに来ますね」
「あぁまた、ここで君の色んな話を聞きたいからね
いつでも来てくれ」
「はい」と言って勇太は背を向け、歩き出した。
勇太に優しく追い風が吹き付ける。
「また」
"またね"
トイレの花子さま @inuinu211
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