第20話

「はぁ…はぁ」

息を切らして、勇太は以前見た不気味な廃校だった小学校の校門前に立っていた。

校舎は綺麗に整備されていて、勇太が見たあの廃校の面影はなかった。

蝉の鳴き声より遠くから風が吹き込んだ。

勇太の目から自然に涙が零れ落ちてきた。

「どうしたのかね」

その声に勇太は声をかけられた方に振り返った。

スーツ姿の中年男性だった。

「卒業生かな?」

「いえ、ただ…ここには思い出があって」

そう言った勇太に、その人は首を傾げた。

「思い出?」

「ここって昔、トイレの花子さんが出るって噂があったらしくて」

「そういえばそんな話もあったねぇ」

とその人は笑った。

「けど、本当はそれはトイレの花子さんじゃないんだよ?」

その言葉に勇太は目を見開いて驚いた。

「どういうことですか?」

「私はね、今この学校の校長をしているんだけど

以前の校長から受け持つ際に言われた話があってね」

そう言うと話しながら歩き始めた。

勇太はその話を聞きながら黙ってその後を着いていく。

「この学校自体ができる前、ここには小さな祠があったらしくてねぇ

学校を建てるとなった時、その祠が邪魔でその場所から移動させたらしいんだ」

「祠って、神様を祀る?」

その問いに校長は頷いた。

「そうしたら、ちょうどその祠があった所に女子トイレができて、そのことが生徒達に知られたみたいで

あの女子トイレには花子さんが出ると噂されるようになってしまったらしいんだよ」

「へぇ」と納得したように呟いた後、勇太はハッと何かに気がついた。

「じゃあその花子さんは神様だったんですか!?」

いきなりのその問いに、校長は驚いていた。

「そ、そうだね

君はその花子さんとやらを見たのかい?」

「えっと…まぁ」

そう答えると、校長先生は「そうか」と笑った。

「実はその移動された祠は小学校の近くでね」

「え?」

そう言うと、歩みを止めて校長は手を伸ばした。

「そこだよ」

そこには小さな鳥居と、小さな祠があった。

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