第16話

急いで山を駆け下りている花子に、雨が強く打ち付けている。

「花子ー!!」

と、遠くで勇太の声がして、花子は勇太を見つけたが、途端に驚いた。

勇太は女の子を背負い、腰まで浸かった水の中でゆっくりとこちらに歩いてきている。

「勇太っ!」

花子は急いで勇太の元に走った。

体力のない、勇太の足がどんどん水に呑まれていく。

流されそうになっても、転びそうになっても、勇太は必死で女の子を背負って進んだ。

花子はガードレールを潜り、急な斜面の間に生えた木の枝を使って下に降りる。

やっとの思いで花子の元に着いた勇太は、女の子を花子に渡した。

花子はその女の子を少し高いところにあるガードレールの所まで登らせて、

「その道を上がって皆の所へ行って!」

そう女の子に言って勇太の元へ降りようとする。

「やだ!お兄ちゃんがっ」

女の子は花子の袖をギュッと握りしめた。

花子は困った表情で、女の子に振り返る。

「俺は大丈夫だから!」

聞いていたのか、勇太がそう叫んだ。

「だから早く先生の所に行って、心配してる先生たちを安心させてくれないかな」

力なく微笑む勇太を見て、花子は込み上げてくる涙を我慢する。

「みんな、心配してたよ

ユイちゃんがいないってみんな探してたから

早く行ってあげて?」

花子もそう言うとニッコリと笑顔を見せた。

女の子は少し躊躇した様子を見せたが、意を決したように言った。

「…うんっ、お兄ちゃんも花子ちゃんも帰ってきてね?」

「なんで私の名前…」

「だってお兄ちゃんが花子って大声で言ってたから」

そう言えばそうだった、と納得した花子は「そうだね」と笑った。

ユイちゃんは花子と勇太の顔をじっと見る。

「先いってるね」

そう言ったユイちゃんに、2人は頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る