第9話

校門の前で、勇太は歩んでいた足を止めた。

遠くで雷の音が聞こえて、空を見上げる。

雨が、ぽつりと勇太の頬に落ちてきた。

「雨…」

結局自分は何も出来なかったと、勇太は虚ろな目で黒い雲を見つめた。

本当に、洪水が起きるのか?本当に自分は過去にいるのか?そもそもこれは現実なのか、夢じゃないのか?

…でも、夢の中でも何も出来ない俺は、これ以上にないクズ野郎だ…

「はは…」

勇太は自分の前髪を強く握りしめた。

雨が強くなってきた。もうすぐで本降りになりそうだ。

「泣いてるの?」

背後で花子の声が聞こえるが、勇太は振り返らなかった。嫌、振り返れなかった。

勇太は肩を震わせて、俯いたまま言った。

「俺…校長に避難させてくださいって言ってきた。だけど、校長の目見たら、何も言えなくなった…

校長に納得させる言葉が思いつかなくて…

でも…本当は洪水なんて起こらないんじゃないかって

そう思ったら、怖くて何も言えなくなった…」

「じゃあなんで泣いてるの?」

勇太は首を横に振って「泣いてない」と呟いた。

「洪水が起こるのは本当だよ、それでここの子達がいっぱい亡くなっちゃうのも本当

今からでも遅くないよ、だからもう一回言いに行こうよ」

花子は勇太の手を掴んだ。

「無理だよ…俺にそんなこと、出来ない…」

勇太は小さくそう呟いた。

「…そう」

花子は勇太から手を離した。

勇太は、罪悪感から胸が苦しくなり、震え始めた。

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