第8話

「ここだよ!」

校長室と書かれた扉の前まで、奇跡的に小学校の先生と誰一人ともすれ違わずに来れたのはいいが、ここまで来て何を話せばいいのかわからずに勇太は後ろにいる花子を振り返り見た。

「じゃあ行こ!」

女児は花子の手を握ると、花子をつれて行ってしまう。

「あっ、ちょっと!」

勇太は引き止めようとするも、女児と花子は早々と行ってしまった。

「えぇ…」と肩を落とすと、そのドアを見つめて入るか否か迷った。

普通のドアなのに、大きな門のように大きく見えてくる。

いきなり変な奴が入ってきたら通報されるんじゃないのか…?そう思うと足が竦んだ。

でも、子供たちの命がかかってるんだ。今行かなきゃ、俺はここの子供たちや教員を見殺しにする事になるかもしれない。

そう思った勇太は勇気を出してノックもせずに校長室を開けた。

「失礼しますっ!」

勇太は大声で言った。仕事をしていた校長先生らしき人物は、勇太を見て驚く。

「この学校の校長先生に用があって来たんです話だけでも聞いてください!」

勇太は校長先生の机の前まで来ると真っ直ぐその人物を見つめた。

「今すぐ子供たちをここから避難させてください!じゃないと大変なことになるんです!」

「大変なこと?」

校長は目を細めて言った。

「もうすぐ洪水が起きてここの子供たちも巻き込まれて、とにかく急がないとっ」

校長は意味がわからないと言いたげな目で勇太を見つめている。

その目を見て、勇太は言葉が詰まった。

「洪水が起こる?生徒が巻き込まれる?そんな根拠の無いことが信じられるか

だいたい君は誰の許可を得てここに入ってきたんだ?」

その言葉に勇太は何も言えなくなってしまった。

どうしよう、このままじゃいけないのに…。 確かにこのあと起こることに根拠なんて何も無いし、本当に起こるかなんて勇太にも100%わかるわけじゃない。

だけど、勇太のいる時間では過去に洪水が起こり、大勢の子供たちが犠牲になった事は事実で、それは揺るぎない真実だ。

そして、この学校も過去にあったのも、未来では廃校になってしまったのも、真実だ。

だけど、そんな真実を勇太の中で持ったとしても、目の前にいる校長に納得して貰うことなんて、できない。

勇太の中に、これまでにない焦りが募った。

「…悪いことは言わないから出ていきなさい」

勇太はもう、何も出来なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る