第14話 ■達也■ さてとお開きだ!

「お疲れ!」細谷さんが最後のお客さんのグラスを片づけながら声を掛けてきた。

「お疲れさまでした」俺は全身からど〜っとチカラが抜けていくのを感じていた。


「逹也、今日はお疲れだったな」店の戸締まりをした金森さんがやってくる。

「あぃや……今夜はいろいろとありがとうございました」

「礼はいらないぜ。ところでおまえが今日飲んだ分、あのお客さんにはチャージしなかったからさ」

「はい、ありがとうございます。気ぃ遣っていただいて」

「いや、だから礼はいらないって。おまえのギャラから引いといた」

「げっ」(鬼がいやがった……)

「それから、今日の遅刻分な? きっちり減給だから」

「えっ!」まぁ、しょうがねぇか……遅刻は遅刻だ。


「そういえばよ、タツ」細谷さんが会話に割り込んでくる。

「はい?」

「おまえ、今日の賄いのイカ、あの客に出したんだって?」細谷さんは妙に力を込めて俺の肩に手を回してくる。

「あ……はぃ……」(イカがどうしたってんだ?)

「おまえって、いつからそんなに命知らずになったワケ?」

「へ?」

「俺が今日体調悪いのに、ワザワザ出てきたのは何のタメだと思ってんの?」

「……俺一人じゃ心許ない……と?」

「言ってなかったっけか? 俺ったら富山出身なわけよ。マイカ大好物なんだよね~」

「えぇっ!」(知らねぇよ、そんなことっ!)


「金森よぉ、マイカの分もきっちり差っ引いといてくれな」

 細谷さん改め鬼その2がニヤリ。

「もちろん、もう引いてありますよ『特』で」

 金森さん、鬼の親分に昇格。

「え~っ金森さん、だってオーダー通すとき右の眉毛でオッケーって……」

「逹也、オマエまだまだ修行が足りないぜ。あれはもちろん、『おまえが払えよ』って言ったんだ」

 あの時「勝った!」と思った俺が甘かった。言葉無くして語ることができるなんて舞い上がってた俺が浅はかだった。

「ふぇぇぇぇ……」


「何落ちこんでんだ? 逹也」

「あ、野瀬さん……」

「まぁいろいろあるさ。いちいち気にするな」

「でもぉ……」


「さぁ! 終わりだ終わりだぁ!」

 細谷さんが俺の背中を思い切りどやしつけながらバックに引き上げていく。野瀬さんと金森さんも続く。


 あっちゃぁ~、参ったぜ。

 せっかくBカンデビューだったってぇのに、今日は差し引きマイナスの方がデカイんじゃないの? しおしおだぁ……。



 鬼軍団のしんがりを行く金森さんが振り向いた。

「あ、それとな逹也」

 まだあんのかよ!


「今日はおまえ、なかなかいい仕事したぜ」

 金森さんの右の眉毛がピクリと動いた。






『Sex Machine』Lyrics by JAMES BROWN

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【 銀座六丁目バッカス 】 不動 慧 @Kei_Fudo

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