第12話 ■翔子■ ありがとう、ありがとう

 その男の子は、静かに、誰にも悟られないように……震える私の手の横にハンカチを置いてくれた。


 さっきまでの元気や若さや軽やかさとは裏腹に、何も言わずさり気なくこんなことするなんて……。余計涙が止まらないじゃないか……。


 でも私はこのとき、ハンカチと共に若さという免罪符の欠片を少しもらえたような気がした。そういえば何年も前に忘れちゃっていたな。

 私は憧れの仕事に就けたころの自分を思い出すことができた。



 そうだよね?

 またたくさんの人に笑顔になっていただけるように。

 私自身が笑顔にならないとダメだよね?

 一日一日、いつも前を向いて上を向いて歩かないとダメだよね?

 

 笑顔になればきっといいことあるよね?

 私、また頑張れるよね?

 私、大丈夫だよね?



 明日は今日より、ため息をひとつ減らし

 今日より笑顔をひとつ、増やそう。



 たっちゃん、ありがとう。

 忘れたい想い出以上のひとときを……ありがとう。

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