第10話 ■翔子■ 今日くらい泣いてもいいよね
酔っているのが判る。強いお酒を飲んで踊ったせいだけではない。酔いに身を任せてあの人を忘れようなんてバカなことを考えていた自分が、逃げようとしていた自分が情けない。私もたっちゃんくらいの歳のころはもっとピュアだったはず。いつももっと前を向いて上を向いていようと努力していたはず。誰かに頼ろうなんて、甘えたいなんて考えていた私は弱虫だ。
でもね?
やっぱり辛いよ。苦しいよ。哀しいよ。
あの人とずっと一緒に歩いていきたかったよ。
独りでお買い物したって、独りでお酒飲んだって、独りでご飯食べたって……
そんな簡単には忘れられないよ。
お部屋に帰ったら、独りで膝を抱えて俯いてるしかないの?
グラスを支える両手の間、艷やかに磨かれたカウンターにポタポタと雫が落ちる。
それを眺めて気がついた。
あぁ、私、今泣いているんだね。
視界の端にはこのバーには不似合いな若い男の子が立っている。
妙に大人びた空気で私を包もうとしている。ちょっと背伸びをしているのかな。一言でいえばナマイキなんだろうけれど、その一途さは伝わってくる。
グラスの中の氷は混じりっけが無くて透明で、中に暖かで柔らかな間接照明の灯りを閉じ込めている。
そんな氷みたいに透明で、そんなまっすぐなのって、そんなピュアなのって、そんなの……ズルいよ。
たっちゃん……からかったりしてごめんなさい。
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