魔女の迷宮 B11 - 4
飛来した一条の矢は『魔女』の額に見事に突き立った!
「ギャァァァ!!」
この世のものとは思えない、というかこの世のものではないのだが、そんな叫び声を上げて悶絶する『魔女』。
こちらに向けていた攻撃も途切れ、圧力から解放された私はその場にへたりこみ、そして長らく呼吸を忘れていたかのように大きく肩で息をする。体中がミシミシ言って目が霞んでいるのがわかる。
魔力、体力、精神力。どれも思ったより限界に達していたみたいだ。横を見ればマキも同じような様子で倒れている。
バタバタと誰かがこちらに駆け寄ってくる足音だけが聞こえた。
「だ、大丈夫ですか!?念のため近くの人たちを集めてきて良かった!」
「クザワさん、それにクラリスさんも……?た、助かりましたぁ。」
このダンジョンの管理者であるクザワと、さっきの矢の持ち主である、3階で出会ったクラリスだ。私達にこのフロアの調査を依頼したクザワが応援を連れて来てくれたということらしい。
二人は私達の状態を見ると、すぐさま回復を始める。
一方で『魔女』の周囲にはいくつかのパーティが取り付き、波状攻撃を行っていた。頭数を生かして途切れることなく攻撃し続けることで『魔女』の動きを封じている。
しかし、どれだけ有効打を叩き込んでも一向に効いている様子が無い。ゴースト系のモンスターならば問答無用で消滅させられるはずのディスペルアローも、既に影響が見られない。
「くそっ、こいつどれだけタフなんだよ!」
悪態をつくのはナンパ男のカール君。振るっている銀のナイフはゴーストにも効果抜群のはずだが、いくら斬りつけようともダメージが見られない。攻撃が効いていないというよりは、すぐに回復してしまうと言ったほうが良いだろうか。
さっきの私たちの攻撃でも『魔女』は、ほぼ消滅していた状態から一瞬で復活していた。
つまり、こいつは正攻法では倒すことができない、何かの仕掛けがあるはずなんだ。
「あっ、そうだ!宝玉!魔女の宝玉ですよ!さっき見たんです、凄い魔力を持った玉があって、魔女さんが居て、それからそのあと、アレが出てきたんです!」
マキが叫ぶ。そうだ、伝説では無限の魔力をもたらすとも言われる宝玉、さっき『魔女』が持っていたものが伝説上のそれと同じかそれに近い力を持っているならば、あいつの異常な再生力にも納得できる。逆に考えればその宝玉さえ破壊できれば勝ち目があるということだ。
「なんだって!?どこにあるんだそれは!?」
どこって……あれ?
『魔女』の体は半透明で向こう側がだいたい透けて見えるが、その中に宝玉があるようには見えない。
取り込んで吸収した?いや、あの手のアイテムはその形を保っている必要があるはずだ。ならどこかに隠した?でもそんな大事なものを本体から離れた場所に隠すものか?
マキもクラリスも辺りを見回しているが、宝玉はどこにも見当たらない。
二人の治癒のおかけで体力は概ね回復し、魔力も戦える程には戻ってきた。
そして頭の回転も復活してきた私は、1つの摂理に思い至る。
私達が求めるものは、いつだってそこにあるんだ。
私は地面に剣を突き立てる。
「大事なものをどこに隠すかなんて、そんなのずっと前から決まってる!」
剣を中心に、光る魔法陣が出現する。
「お宝は……ダンジョンの一番奥にあるんだよ!」
必殺!剣陣剣!
魔方陣の円周を光の剣が駆け回り、床を円形に抉り取っていく。
やがて、私達を支えきれなくなった床は大きな音を立てて崩壊し、私たちは瓦礫と共に階下に落下していくのだった。
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