魔女の迷宮 B11 - 3
私には驕りがあったのかもしれない。
最上位のクラスになって、メインではなかった魔法を主体にするようになって。
それでもまた剣を持ちさえすれば何にだって負けないと。
ダンジョンに対しての敬意や真摯さなどというものは、口に出してはいてもどこか心の中では軽んじていた自分が居る。
「ぐ……くっ!」
ますます強くなっていく『魔女』からの攻撃、このままではシールドを破られるのも時間の問題だろう。
かと言って反撃に出ようとシールドを弱めればその瞬間にやられてしまう、この攻撃を直接受けては命は無いだろう。
"命はない"、その言葉が重くのしかかってくる。
状況を打開するための手は尽く否定されていき、死を免れないという事実だけが積み重なっていく。
全身を冷たい汗が流れていくのを感じる。
私がここで終わることは、仕方ない。自分にはそれなりの覚悟はあったはずだ。
でもせめて、せめてマキだけは生きて帰さなければ。こんな所に連れて来た責任として。
ちらりと横に立つマキを見る、全力でシールドを保ち、苦しそうな顔をしながらも真っ直ぐに前を向いている。
「大丈夫です、ソティアさん。大丈夫です。」
そして、驚くほど落ち着いた声で私に語りかけてきた。
そんな余裕は無いだろうに、メダリオンから眼鏡がマキの顔に出現する。
「私は、知っています。覚えてないけど知っているんです。私とソティアさんはこんな危機は何回も乗り越えていくんです!ずっと……ずっと一緒に冒険するんです!」
麻痺しつつある私の思考はマキの言動の意味が分からない。しかし『読み解き』のスキルがその意味を送り込んでくれる。
――マキの夢はただの夢ではなく、予知夢、未来視、将来の経験を前もって先取りしているということ。
マキはこれからもずっと私と冒険する夢を見ているということ。
それが何を意味するか、それはこの危機を乗り越えた未来があるということだ。
未来は不確定であってもまだ閉ざされていないということだ!
眼鏡なんて、私にはただ格好から入ろうとして使っていただけのものだが、マキにとっては世界の広がる象徴、おぼろげだった未来が目の前に現れることのシンボルだったのだ。
それを、マキは私に教えてくれた。
「……そうか!分かった!」
霞む目に光が戻り、麻痺していた全身の感覚が蘇ってくる。
現金なものだ、もはや覚悟を決めていた私の意識は、再び立ち向かう力を取り戻した。
しかし現状は何も改善していない。敵の攻撃は未だ緩まず、シールドにはヒビが入り始めている。
何か、何でもいい。倒せなくても『魔女』に届く何かを!
ダンジョニストはどんな時だって、その時にあるもの、持っているもので状況を切り開くんだ!今私が持っているものは……そうか!
「これでも、くらえ!」
魔力はシールドに全て注ぎ込みながら、カバンから取り出した封印石を放り投げる。
こいつを持っていたモンスターの魔法無効化、また凍結封印の仕組みからして、この封印石には魔法の影響を受けない特性があるはずだ。
投げられた封印石は、シールドを素通りし、敵の攻撃にも弾き飛ばされることなく放物線を描きながら飛んで行き……『魔女』が少しだけ、避けた。
ただそれだけで、攻撃が緩まるわけでも脱出口が開くわけでもない。ほんの少しだけ攻撃範囲がずれただけだ。
その、ほんの少しの隙間から救世主はやってきた。
「
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