魔女の迷宮 B2
「そこのお姉さんたち!ちょっと待ってくれない!?」
地下2階を進んでいる時に、通りがかった知らない男に声をかけられた。
「このへんで金色のスケルトン見なかった?全身キンキラキンのやつ!」
ダンジョニストに限らず、人には大抵得意としていることがある。それをスキルという形で確立すると、その能力を安定して発揮できるようになったり、通常の思考と独立して動かせたりするようにもなるのだ。
私は読解力とか洞察力とかそういうのが強かったみたいで、『
だから金のスケルトンとか完全にデマカセで、こいつが単純に私達を、というかマキをナンパしに来てるのがよく分かる。
「いるんだよね〜!金のスケルトン。攻略本にも書いてないそういうレアなモンスターがたまーにね!お姉さんたちこのダンジョン初めて?俺たちもう結構潜ってるんだけどさあ……あ、お姉さん
この男、普段は軽薄でちゃらんぽらんだけど、いざって時には芯があって頼れるので、付き合いが長い相手からは信頼される。などという情報が『読み解き』されてくるが、残念ながら私達は初対面だし今は重要なシーンでもなんでもないので、ただの鬱陶しいナンパでしかない。
「俺カールって言うんだけどさー、お姉さんたち2人だけ?剣士と魔術師だよね、戦闘職だけじゃ心細いっしょ〜?ウチのパーティ今アタッカーが手薄なんだよね!良かったらさ、パーティ合流しようよ~ちょっとだけ!お試しでいいからさ!良いよね、じゃあホラ行こっ!」
それにしてもよくスラスラと言葉が出てくるものだと思う。『
「待って待って、そういうのは間に合ってるから要らないよ!あっち行って!」
マキとカール君とやらの間に割り込み、手を突っ張って二人を引き離す。と、カール君が今度はなんと、その私の手を取ってじっと見つめ始めた。さっきまでのニヤけ面から真剣な表情に変わっていて、そんな顔で手を握られるとなんか恥ずかしい。
「お姉さん鍵開けとかできる人でしょ。俺、同業者の腕前は手を見れば分かるんだ。」
カール君の言う通りで、個々の技術は専門タイプには及ばないけど、私もマキもダンジョンに必要な技術は一通り持っている万能タイプだ。間に合ってるって言ったのはそういうこと。
「いや、全然及ばないなんてことないって!盗賊専門になったとしても銀クラスは行ける腕前くらい全然あるって!」
真剣な顔で本気で褒めてくるのでなんだか悪い気はしなくなってきた。
「こりゃ本当にパーティにスカウトしたくなってきたぞ、どう?うちは回復役も居るし、みんな良いやつだよ。」
手を握って真っ直ぐ見つめられると、少しドキドキする。
こんなナンパ男なんて相手にするわけないけど意外と目がきれいとかそういう事を思ったり
「ダメーーーっ!!!」
モジモジしてるうちに、今度はマキが私とカール君の間に飛び込んできて、私の手を奪い取る。
「ソティアさんはまだこれからも私と二人で冒険するんです!他のパーティには行かないです!!盗賊さんとか回復さんとかが居た方が良くっても、行かないんです!!」
マキが私の手をギュッと握りながら涙を浮かべて必死に訴え、その姿を見て私も冷静になる。
「うん、そうだねマキ。それに、そういう事なら向こうも後ろのお連れさんに相談しなきゃいけないと思うし。」
「え?」
後ろと言われて振り向いたカール君の顔面に、強烈なパンチが叩き込まれる。
カール君の仲間と見られる少女が般若の表情で
「カール!あんたは毎度毎度どうしてそう女の子に見境が無いの!すぐそこに婚約者が居るんでしょ!少しは自重しなさいよ!」
「っ!お前には関係ないだろ!」
「関係ないことないでしょ!あんたがそんなんだから私は……!」
「ちょっとお兄様に酷いことしないでください!」
私とマキを一気に蚊帳の外にし、いつの間にか集まってきたカール君の仲間たちはひとしきりやいのやいのした後「すいませんお騒がせしました!」と謝ってからカール君を引きずって去っていった。
……一体何だったのだろう。
ハートの付いた矢印がパーティ内であっち向いたりこっち向いたりする様子が『読み解き』される。そんなん読み解きたくなかった。
言わせてほしい。
ダンジョンでイチャイチャすんな!
ダンジョンっていうのはなあ!ダンジョンってのはなあ!死と隣り合わせの状況で自分の限界と向かい合う場所なんだよ!出会いとか求めるのは間違ってるんだよ!ダンジョニストには恋人とか居なくていいんだよ!!!
「……でも、本当は居た方が良かったんですかね?」
「居なくていいってばよ!」
「ふぇっ!?」
しまった、興奮しすぎた。
私の頭の中の叫びなど聞こえているはずもなく、突然怒鳴られた形になったマキは目をまんまるにする。
「そ、そうですか……?パーティに盗賊さんとか回復の人とか……そっか、そうですよね……ソティアさんは1人でなんでもできますもんね……本当は、私もいらない……?くすん」
ヤバいヤバい半泣きになってる、ていうかそっちの話か!。
なんとか取りなそうと、話を切り替えるという意味も込めてメガネを装着する。
「コホン。え〜〜っとね、それではパーティの役割分担について教えます。」
マキもとりあえず泣くのは止めて話を聞く姿勢になったようだ。セーフ!
「さっきの人が言っていたアタッカーっていうのは、戦闘をする人の中でも相手に攻撃するのが主な役割だね。他には攻撃を受け止める専門のタンクっていう役割もある。マキは今は両方やってる感じかな。
それから、戦闘する以外の専門タイプの人たちってのも居るんだけど、そういう人たちはダンジョンによって大活躍したり全然役に立たなかったり差が大きいんだよね。」
「回復とかはいつでも必要なんじゃないですか?」
確かに、私もマキも簡単な回復ならできるけど、本職の回復役が居ればもっと深い傷も治せるんだろう。
「そこが役割分担のバランスが難しいところでね、回復専門の人が居ると、戦う人はその人を守らないといけない。それに傷を負うことが前提になってくるから逆に危険度が上がることもあるね。でも長丁場でダメージが蓄積していくような時は回復役が居ると有難いでしょ。
「そっか……じゃあどこでも最強みたいなのは無いんですね。」
私はコホンと再び咳払いして軽く目を逸らす。
「まあ私は、マキとの私の、
ちょっとわざとらしかったかと思いチラリとマキを見ると、パァッ!という音が聞こえそうなほど表情を明るくさせ、ブンブンと頷いていた。
あまりに嬉しそうなので思わず私も破顔する。こんな良い子が慕ってくれるなら、モテるモテないだとかは小さいことなのかもしれない。
そして私達はまた、下の階へと進んでいくのだった。
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