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※※※
「大木理沙子は、このマンションのこの部屋の、ちょうど上に住んでいる女性です。部屋のどこかで、死んでいると思います」
「おい」
日野が返事をして、部屋を出て行く。
「手紙をよく読んでください。どうせ警部さん、イライラして文字なんかひとつも読んでないだろうから」
「お、おう」
立川警部補が手紙を手にする。そこには、大木理沙子の名前があるはずだ。
「ぼくはここに来るとちゅう、かれ果てた観葉植物、そしてポストからあふれた郵便物などの情報から、この結論にいたってました」
「すると、古賀がその大木理沙子を殺して、自分も果てたっちゅう寸法か」
「そうでしょう」
日野がドタドタと帰ってきた。
「上の住人は確かに大木理沙子のようです。表札はでてませんが。あと、施錠されていたので、管理会社に連絡中です」
「おっ」
立川が片手をあげて労をねぎらう。
国分寺はその言葉を聞きとどけ、推理をつづけた。
「大木理沙子は古賀明に自分の部屋で殺された。鍵は合鍵だった。その際、一緒にペットの猫も一匹、殺された。一人と一匹、おんなじところに押し込められた」
国分寺は一点を見つめ、なおもとなえる。
「古賀は一方的な愛を押し付け、彼女を殺した。自分のやったことにかなしさがあふれ、絶望し、バスルームで服を脱ぎ捨て、洗濯槽に放りこみ、シンクにおさまり手首を切った。ナイフは洗面器に放り、水をためた。血液で、錆びるからだ」
「死ぬ直前だってのに、妙にこまかいこと考えるんだな」
「死ぬ直前にひんした人間は、ときに理解のとどかない行動に走るものでしょう」
そういうものか、いや、そういうものだな。立川はへんに納得した。
「くわしい死亡時刻はわかりませんが、こうして、二人と一匹が死んだ。……一匹、死んだ。だけど、生きるよりも幸せなことが、あるのかもしれない。ないのかもしれない。それは、誰にもわからない」
入り日が、部屋に射しこんだ。それが合図であったわけはないが、立川警部補は玄関に向かい歩き出した。
「立川さん、どちらに……」
「どこって、上だよ。ぼちおち管理会社もやってくるころだろう」
「あんなやつのいうことを信じてるんですか?」
「いいよ、いい。とりあえず後はまかせた」
「た、立川さん!」
いい、いいと言いながら、警部補は刑事を連れ立って去っていった。
「ね、わかるだろう。彼女は、いっしょに、死んでしまったんだ……」
誰に向けた言葉だったろう。
国分寺も一度だけ振り返り、立ち去った。
寅次はもう、いなかった。
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