※※※


 鼻息あらく、先生と寅次が部屋から出てきた。

 すわ、これから一世一代の大捕り物が始まるのだ。

 ……と国分寺は思っていたのだが、あついあついと窓っぺりに移動した先生は、どうやら涼をもとめ急ぎ来ただけのようだ。

「なにかわかりましたか?」

 聞いたのは寅次だった。

「たぶんね。どっちがどっちに居るかは、開けてみないことには分らないけど。ああ、水がほしいな。水はこころにもいいから」

 落ち着いたらしい先生が、寅次の目を見た。

「寅次君。きみにとっては良い知らせではない。まっさかさまに落ちていくような、とても、残酷な結論だ。それでも、私の口から真実を知りたいかい?」

「……」 

 寅次は返答に詰まったようだが、やがてしっかりとうなづいた。

「よし」

 先生はやおら振り返る。

「おいっ、警察は?」

「へっ」

 間の抜けた返答に、先生はこまったような視線を国分寺に向けた。

「何で警察を呼ぶんです?」

 しごく当然の回答に、先生は取り合うこともせず、

「そりゃ、解決するためさ。解決しなくってもいいってのかい」

「それは困りますよ」

「なら、今すぐだ。ああそれと」

 国分寺がつぎの句を待っているが、先生は手をちょいちょいと振り、

「ほら、何してるんだ。耳を貸せ。気のきかない奴だな」

 はいはい、と国分寺は腰を折り、先生の口元に耳を寄せた。

 しばしごちゃごちゃとやったあと。

「では国分寺君。よろしくたのむよ。私は、水をのみにいくからね」

「先生はどちらに……?」

 寅次が聞いた。

「私は表舞台に立つのは苦手でね。推理の披露は彼がやるよ。君も現場で聞けばいい」

 不安そうな寅次だったが、そういいきられてしまったら黙るしかなかった。


 遠くから、警察車両がけたたましくサイレンを鳴らしやってくる。

 先生が国分寺にバトンをたくす。

「ほら、オーディエンスがやってきたぞ。幕開けだ。私は水だ。水を飲んでほっとするんだ」

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