第2話-始めた理由-
「今日はなんか質問コーナーみたいな感じでやっていこうかなって思ってるよ」
何度やってもこの最初の一言には慣れないものだ。
冷静に考えてみれば自分の部屋で椅子に座り一人で喋っている奴だ。俺がそんな奴見かけたら確実に引いてしまう自信がある。
しかし俺がそうぎこちなく呟いた瞬間、この配信を見てくれている人達、リスナーがさまざまな質問をコメントに書き込んでくれる。そこまで行き着いてしまえばあと俺がすることはいたって簡単だ。
目に付いたコメントを見てそれに対して思うがまま解答していくだけだ。テストみたいに正しい答えがある訳じゃない。
『最近見始めたんですが、活動はいつぐらいから始めていたんですか?』
「えーと、去年の夏休みからあたりだからもうすぐ一周年かぁ。一周年の時には記念配信みたいなのやってみたいなー」
配信に手を出し始めたのは中3の夏休みだ。
学校は中高一貫校であるため受験などは気にする必要がない。部活は中学までサッカー部で中学サッカー部から高校サッカー部に移動する間で退部したため、急激に暇になった。
そこでそれまでリスナー側だった『キャンパス』で配信者として活動することにしたのだ。
そんなしみじみと感傷的になっている場合ではない。すぐさまコメント欄に目を移す。
『え、夏休みってことは学生なんですか?』
俺は活動する上で一番気をつけていることがある。
それは、現実世界とネット世界を分けることだ。これを気にかけている人はに案外多いんじゃないかと思う。
さっき言ったと思うけどこうやって部屋で一人パソコンに向かいながら話しているということクラスメートなどに知られたら明日から学校に行けるかわからないほどだ。俗に言う黒歴史と言うやつになること間違いなしだ。そういうのは中学生とか子どものときまでで充分だ。
だから俺は基本的な個人情報を一切出していない。明かしているのは性別と声のみ。
「あっと……そうかもしれないね。うん」
完全に濁した俺に対して『笑笑』や、wを連打したりしたコメントが流れる。
「はい。この話題終わりなー」
『彼女はいるんですか??』
「やっぱり質問するだけでも人を悲しませることはあるんだよ……男友達にこういうこと気軽に質問しちゃだめだからな? 普通に心折れちゃうかもしれないし、人によっては間違った方向に勘違いしちゃうからな?」
そんなこんなで質問を重ねていくうちにとある質問が目に止まる。
『どうやってそんな配信者として有名になったんですか?』
そういえば俺にはこんなにもたくさんのリスナーの人が付いていてくれる。
もちろん最初はすごく小規模な所から始めたけれど、地道に続けてるうちにここまで来てしまった。
それまでには色んなことをやったり色んなことが起こったりしたけど、俺を見てくれている人がいるってだけで続けてこれた。
柄にもないことを考えているうちに無言でいる自分に気づく。
「あ、ごめん。それについては長くなっちゃうかもしれないけどいいかな? 言いたいことは何となく決めたから」
透明なキャンパスを何色に染める 百瀬有梧 @Yugo_srln
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