透明なキャンパスを何色に染める
百瀬有梧
第1話-平穏なリアル-
授業終了のチャイムで目が覚める。
目覚めとしては、まぁあまり良くはないのは皆さんもわかるだろう。
そんな普段と違う目覚めは、机上にあった俺のひじを滑らせ見事に身体のバランスを崩させる。俺は糸が切れた人形かのように大きな音を立てながら机から転げ落ちた。
その音は授業後と号令の間のざわめきを少し静寂へと変える。
それからすぐ、周囲からくすっと笑い声が聞こえてくるのは聞こえないふりができるし特に僕もそれぐらいのことなら気にしない。しかしながら俺の右後ろの席からのぶはっという大きな声は無視できるようなものではなかった。
そんな遠慮ない行動を俺に対して放つことができるのはクラスの中でも残念ながら片手ほどしかいない。
しかも、俺の右後ろの席と言うと教室の窓側の最後尾の席、生徒から言わせると特等席というやつだ。そんな、静かにさえしてれば教師の目に付かない宝を見事にその言動で腐らせているのがあいつ、今野旭こんのあさひだ。俺は普段コンと呼んでいる。
「ニケおはよう。いい朝だね」
語尾に笑をつけているのが見え透くような口調でからかってくる。
コンは俺の中学時代からの友達でいわゆる腐れ縁と言う奴でつながっている。小学校は3年生から4年間同じクラス、そのまま中学1、2年と同じクラスだったが3年で分かれたので縁も切れてしまったかと思ったのだが、高校のクラスメートとしてまさかの再会を果たした。
「別に金曜日の6限の物理ぐらい寝てもよくないか?」
俺のそのセリフを聞いてからコンの表情が不意に硬くなる。
「そ、そうかな……」
「そうか、二家。期末テストの成績が楽しみだな。前回、17点だったけか?」
そう。僕は後ろにいるコンの方に視線を向けていて気づかなかったのだ、まだ教壇に物理の先生がいたことに。
教室が一気に笑いの渦に飲み込まれた。
「さっきはコンのせいで酷い目にあったな」
下駄箱で靴を変え終わると、話題はさっきの授業のことになった。
「いやいや俺のせいにするなよ。勝手にニケが自爆したんだろ」
「確かにそうだけどさ。軽く寝ぼけてたんだよ」
「やっぱそうだったのか」
「というか理科は昔から苦手なんだよな」
「だからって言ってやらないわけには行かないだろ? 頑張れよ。じゃ今日部活だから、またな」
コンは小学校からやっているという理由でバドミントン部をに入っている。
練習は月水金土とあり、よく日曜日などに試合があったりする。先ほど言った通り今日は金曜日だから練習があるということになる。
「じゃあまた来週な」
「じゃあなー」
そう言ってコンは、校門を見てすぐ左手にある体育館に向かう。
コンと分かれた俺はそれから合流するような友達はあいにくまだ出来ていない。
これから家に帰ったとしても親は共働きなので誰かいる訳でもない。
だからといって俺は孤独な訳ではない。
足早に家に向かい、到着するとさっそく動くのが楽な部屋着に着替える。
そして自分の部屋の勉強机の傍らに置いてあるノートパソコンを開くとデスクトップからショートカットで『キャンパス』を起動する。
まず大きく表示されるのはログイン画面だ。
ユーザー名の所にはいつも通り『ニッケル』と書かれている。もう何回も打ち込んだことのあるパスワードを素早く打ち込むとすぐさまマイページに移動する。
タブの左下にある『ライブ開始』ボタンをクリックし、飲み物を取ってきたり机の上を片付けたりして約3分。
3分後、タブの下半分に映されているコメント欄には「わこつです」などといったコメントが1秒に何個も更新され続ける。視聴者数は539人。
そう、俺は配信アプリ『キャンパス』内でそこそこの視聴者を持つそこそこの有名人、『ニッケル』なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます