第6話

そうそう。笑美に対しての言葉遣いで、こんなこともありました。


夫の作業服が切れていた時の事です。笑美は洗濯して乾いた後、切れた部分を縫っておきました。その範囲は太もも部分が大部分見えてしまうであろう広範囲。


そりゃ、縫うよね。


今流行りのダメージの域を軽く超えていますから(そもそも作業服にダメージがあったら怪我のもとだし)。

夫は縫ってあるとは知らずに職場で着替える時に気付いたようです。帰宅後言った一言。


「作業服、縫ったんだ」


いやいや、そこはせめて「作業服、縫ってくれたんだ」ではないでしょうか?


 笑美は、「はい。切れていたので縫わせていただきました」と答えました。笑美的には嫌味を込めて伝えたのですが、夫には笑美の嫌味はまったく伝わりませんでした(笑)


ここでも笑美は【みかた】を変えて、怒りを鎮めました。


【別に縫わなくても良かったものを勝手に縫ってしまったのは私】と。


笑美の中では切れた作業服で仕事をして怪我でもしたら大変だし、何よりそんな作業服をそのまま着させている奥さんってひどい人と思われるのが嫌だったのでホントに勝手に縫ったのだから。


もちろん本音はせめて「ありがとう」の一言くらいは欲しかったのですがね。それを望んではいけないことをすでにこの時の笑美はそれまでの行動、言動から学んでいます。


 笑美はこんな感じで常に【みかた】を変えて気持ちを切り替えていました。


いちいち突っかかっていては笑美の体力も気力も精神力ももたないからです。テレビの特集などで夫婦喧嘩は必要とか言っている時がありますが、笑美の家庭ではこの特集のように夫婦喧嘩をして関係が改善されるとは、どうしてもイメージ出来ないからです。その理由は、


【俺様は悪くない】


が夫の根底にあるからです。笑美は夫を昔から知っています。笑美の知らない夫の部分に関しては学生時代からの付き合いのある夫の友達から聞いたこともありましたし、何より笑美も高校から夫を知っているからです。


そして当時では珍しくなかった高校卒業での就職で、笑美と夫は同じ会社に就職していたので、とにかく昔からよく知っているのです。何をしてても誰かが悪くて自分は悪くないという思想は変わりません。実は笑美が夫と付き合った、結婚した・・・経緯の中にこの性格がかなり関わっていました。


 笑美の周りには夫のような考え方の人が居ませんでした。当然、笑美にとってこんなに自分を保守するタイプの人っているんだと新鮮に見え、それが「この人、すごいなぁ」と見え、「こんな風に生きられる人が羨ましい」となり、「この人、好き」と変換してしまったのです。笑美が夫と出会った頃に行って、「それは、恋愛じゃないよ!すごくもないよ!羨ましがられる生き方ではないよ!」と言ってやりたいくらいです。


 周りにいなかったタイプの人だったから笑美は惹かれてしまったのかもしれませんね。人を見る目がまだまだ未熟な頃に出会ってしまったのが運の尽きだったかもしれません。笑美の勘違い恋愛から始まった縁。


あれよあれよという間に結婚に行きつき、ようやく【俺様主義】はダメな奴やんと気付いた笑美。


笑美がちゃんと正社員として働き続けていたとしたら、もしかしたらとっくに離婚しているかもしれませんね。経済力がないというだけで離婚に踏み切れない笑美。


「だったら、働けばいいのでは?」という人もいるでしょう。ごもっともです。


ただ、既に働くには年齢的に雇ってもらえる場が限られているのです。笑美にはこだわりがあり、子供が成人するまではどんなに辛くても離婚はしないと決めていました。


出来ることなら子供が結婚するまでは両親揃った状態を維持していたいと。死別ならともかく、離婚で片親になった場合、子供の肩身が狭くなるのではないかと考えているのです。


子供を授かった瞬間から、自分が親としての責任を授かったと考えているのです。なので、当然離婚するにしてもその時の自分の年齢を考えると、既に働けなくなる、もしくは職種が限られてしまう年齢になってしまうのも当然といえば当然なので、本音としてはずっと仕事をしていたかったのです。


そうすれば、働けない年齢になったとしてもある程度の貯えが出来ていたはずだったのです。人生はなかなか計画通りにはいかないものですよね。

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