第3話

 そういえばこんなこともありました。


これは数年に一度の割合で恒例行事と化しているのですが、夫が会社を辞めたいと言い出すこと。


そして、そうなるととにかく笑美に愚痴る。自分は悪くなくてすべて上司が悪いと。これも恒例行事。


前述の【失敗は誰かのせいにする】に通じるところがあるんですが、上司に指摘されたことや任されたことが自分で出来ないことだったり、納期的に無理があることだったりすると【嫌がらせ】と取ってしまう傾向があるんです。


確かにちょっと自己中心的な上司のようですが自己中心的な奴に自己中心的な上司と位置付けられるのはちょっと気の毒にもなります。


 とりあえず笑美はこうなるといつも夫の愚痴を「ひどいね」「そうなんだ」と肯定しながら聞きます。そして最後はやはり【みかた】を変えたアドバイスをします。


それは、


「そんなに辛いなら辞めてもいいんじゃない?次をしっかり見つけて、間が空かないようにすれば生活には問題ないと思うし、給料が下がってしまったら今の出費を見直せばいいんだから」


このセリフは笑美の本心。

辞めるのは構わない。


でも今ある保障や収入がなくなるのは困るということをさりげなく伝えるのです。笑美が親身に聞くので夫は今までにないくらい真剣に笑美の言葉にも耳を傾けているらしく、一言一言が頭にしっかり届くようです。


そして結論から言うと、夫は退職せずにその職場で働き続けているのです。よく考えて、年齢の事や今ある保障と同等のものが転職後約束されている企業が見つかるか、などを考えるだけで自信がなくなるのだと思います。何より年齢の壁は高いと思います。これはおそらく定年退職するまで続く恒例行事だと笑美は予測しています。


 夫が弱っている時に今がチャンスとばかりに罵声を浴びせたり取り乱したりすると事態は修復出来なくなると笑美は考えています。


なのでこんな時には茶化したり相手の弱いところを突いたりはせず「あなたの悩みは私も一緒に考えますよ」的な態度で接する。


そうすることで相手の噴火寸前の怒りは沈下しやすくなり結果的に最悪な事態を免れるというのが笑美の考えです。この考えの方が妻としては面倒もなく理想的なのです。


 主婦と言うものは夫よりも何かと忙しい。

しかしながらその忙しさは夫に伝わる夫婦と全く伝わらない夫婦がいるのは事実。笑美の場合は後者。


現在色々あり専業主婦になっている笑美は一日中暇をしていると夫に思われている。そこは強く「暇じゃない!」とアピールしてもいいと思うが、今の笑美はそれすら面倒なのです。


何が面倒って暇じゃないことをアピールしたところで夫は【仕事する=給料が発生すること】と思っているから。


専業主婦には誰もお給料を出してくれません。


つまり夫の考えで行くと笑美は【仕事をしていない=暇】と言う公式が成立してしまうのです。世の中の専業主婦を完全に敵に回すタイプの夫です。


 そんなに無理解の夫なのに笑美はどうして離婚しないのでしょうか?簡単です。今離婚したら無収入の笑美は子供と離れてしまうことになるからです。


夫への愛情などはとうの昔になくなっていても子供への愛情は常にMAXであるからです。なので笑美はひとつのことを考えています。


それは子供が独立した時点での離婚の懇願。


それが実現するかどうかは未定ですが、そういう計画は常に持っています。なのでこっそり貯金もしちゃってます。


ただ、今すぐではないのでその貯金は時に生活費の不足などに充てることもありますが。今はそれでいいと思います。それが生活をするということ、今を不自由に生きないため。


人は未来を想像したり計画を立てたりしても現在をしっかり生きていなければ当然未来には繋がりません。


未来の想像や計画を実現させるためにも今を未来に繋げていく必要があるのです。なので今、笑美はどうしようもない夫と戸籍上夫婦でいるうちに今をしっかり守り未来に繋げようと計画しているのです。


今の我慢はきっと未来に役立つはずなので。


願わくば、未来に繋げる前に夫が闘病生活などにならないことを祈り、食生活はかなり気を遣って作るようにしています。一見するといい奥様ですが、単純に夫の介護をする気が全くないためで、いい奥様どころか悪妻なのです。


自分が関わりたくないので健康でいてもらい、しっかり働いてもらうことだけを考えているのですから。

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