狼谷 龍の見た景色

 明日、第四金曜日がやってくる。この日は、予定通り龍宮寺と『勇者』岩崎妹との『決戦』が行われる。

 しかし俺は、『決戦』の会場にいなかった。それどころか、摩天楼学園の敷地内にすらいない。

「それで、こーはい。本当に来てよかったのかい?」

「何がです?」

 隣に座っている気だるげな不知火先輩にそう返すと、先輩は小さくため息を付いた。

「わかっているくせに。龍宮寺クンの事だよ。流石に海外に出ては、直ぐに駆けつけるのも無理があるでしょ?」

 不知火先輩のその向こう、機内の窓ガラスには、飛行場の滑走路が覗いていた。俺たちが乗っている摩天楼学園の保有するプライベートジェット機は、もう間もなく離陸する予定だ。

「今なら、まだ降りれるよ? こーはい」

「ご冗談を。『高楼事件』が関連しているこの件で、俺が何を一番優先するのかは、不知火先輩もご存知でしょう?」

 上野の実家を地上げを行っていたのは、太華屋というロシア系の企業だった。

 太華は同じ読みで別の感じに当てはめると、大廈となる。高楼の類義語だ。

 堀田が家族で食事に行き、スランプとなる原因となった美術館のチケットを配っていたのは、香楼館という中華料理屋。

 香楼は別の感じを当てはめれば、高楼となる。

 そして、岩崎妹がネットでアドバイスを受けていたという人物は、ニバスクリオープ。

 ニバスクリオープはロシア語で、摩天楼。

 そして、摩天楼も、高楼の類義語に当たる。

「『高楼事件』に関係しているなら、俺がその根源を絶ち、解決する。それが、俺の最優先事項だよ。今回の龍宮寺の『決戦』の場に立ち会う事より、よっぽど重要だ。それに、俺は龍宮寺に『決戦』の当日その場にいるだなんて、一言も言ってないですからね」

 呆れたように俺を見る不知火先輩へ、逆に聞いた。

「それより、不知火先輩の方こそ良かったんですか? わざわざ先輩本人が付いて来なくても、あれを貸してくれるだけで良かったのに」

「おいおい、私を一体何だと思っているんだ?」

「『怠惰な魔王』ですよ」

「ならば『魔王中の魔王』。私が怠惰に後輩の心配をして、一体何が変だというのかね? 基本、私は付いていくが、目的地に着いたら動く気はないよ?」

 その言葉に、今度は俺が呆れる番だった。

 機内の時計を見れば、もう離陸する時間だ。

 目的地に着く頃には日付が変わり、予定通りその日は『決戦』が行われることになるだろう。

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